殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗

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16.何も告げずに

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「……あなたが竜に怯えていたということはわかりました。でも、結局あなたは私から竜を吸い取っていたのですよね? それは一体どうして?」
「年月が経つにつれて、俺は少しずつ強くなることができていた。自身の恐怖と向き合った結果、やはりあなたを助けたいと思ったのだ」

 私の言葉に対して、ナーゼル様はゆっくりと返答してきた。
 成長したことによって、彼の中には勇気が芽生えたのだろう。
 それはすごいことだ。あの竜の力に対抗しようと思えた時点で、彼は常人以上の精神力を持っているといえるだろう。

「故に俺は、その方法を調べることにした。幸いにも一定の年齢に達した時点であなたが何をされたのかは教えてもらえた。その結果、竜がどのようにあなたに封印されているのかがわかってきたのだ」
「その辺りに関しては、私はあまり詳しくありません。でも私が知っている限りだと、この封印は精神が未熟な赤子の時にしか機能せず、母親から子へと受け継ぐことで半永久的に封印できるものだと聞いています」
「その認識は間違っていない。そして俺はそれを知った瞬間思ったのだ。この封印は、子孫代々に受け継がれていく呪いであるということが……」
「呪い……」

 確かに竜の封印は、ある種の呪いといえるかもしれない。
 私の子孫は、これからこれに縛られることになっていた。竜を解き放たないために、封印は受け継がれていく。それがいいことであるとは到底思えない。

「なんとかしなければならないと思った。このままあなたが……そしてあなたと俺の子や孫がその役目を担うなどということが俺は許容できなかったのだ。だから状況を覆す手段を探した。長い年月と時間をかけて……」
「それは……」
「その間、俺はあなたに会うこともできなかった。全てを犠牲にして、俺は手段を探していたからだ。ただそれは、ある種の言い訳だったのかもしれない。俺の中にあった恐怖が、あなたと会うことを避けていたのかもしれない」

 竜が暴走してから、ナーゼル様とはほとんど会っていない。
 それは最初は、彼が恐怖していたからだったのだろう。しかし後半は、彼が血の滲むような努力をしていたからだったようだ。
 この状況を覆す手段、それを探すのはかなり大変だったはずである。王国が把握していない事柄を掴むのは難しい。苦しい作業だったはずだ。

「結局俺は、封印を分割する手段しか見つけられなかった。元々赤子に移すのが容易というだけで、他の者に移すことはできたのだが、俺はより精度のいい方式を見つけたのだ。俺とあなたが結婚する前くらいに」
「それで、ナーゼル様はその方式を実行したのですか?」
「ああ……あなたの中にいる竜を少しずつ吸い出した。あなたをあそこに閉じ込めておいた理由はいくつかあるが、最初はあの位置が都合がいい位置だったからだ」
「封印などの術式には、確かそういうものも大事でしたね……」
「その結果、術は成功した。あなたの中から少しだけ竜を吸い取ることができたのだ」

 私がここに嫁いできた時から、ナーゼル様は色々とやっていたらしい。
 しかし、どうしてそれを私に教えてくれなかったのだろうか。黙って色々なことをしていた訳が、何かあるような気がする。

「そして俺は自らの中に現れた竜という存在に、ひどく苦しんだ。俺の中であれが暴走する感覚はとても恐ろしかった。そして同時に、あなたが今まで受けてきた苦しみも理解することができた。あれは、とても辛いものだ……」
「ナーゼル様……」
「故に俺は、あなたから竜を吸い取り続けた。あなたが少しでも楽になるようにと竜を半分背負うこと決めたのだ」

 ナーゼル様は、私の目を真っ直ぐに見てきた。
 その真剣な表情からは、彼の意思が伝わってくる。
 それはある種、覚悟を決めている顔のようにも見える。やはり彼は、かなり危険なことをしていたのかもしれない。その顔を見ているとそう思ってしまう。
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