勝手に期待しておいて「裏切られた」なんて言わないでください。

５．積もった不満

「なんてことをしてくれたんだ！　この馬鹿者がっ！」
「まったく、あなたは本当に愚かね！」

　お父様とお母様は、口々に私を罵ってきた。
　バラルド様は、私の反論にすっかりご立腹であった。その結果、彼はこの婚約を破棄すると言ってきたのだ
　それを知った父と母は、ずっとこんな感じである。水を得た魚のように、私を罵倒してくるのだ。

「アルネシアであったなら、もっとうまくやっていたでしょうに……」
「お前は、何度我々の期待を裏切れば気が済むのだ。出来が悪いにも程がある……」
「……」
「むっ……」

　私は、二人の罵倒をずっと黙って聞いていた。
　俯いてじっとしている私を、両親はもしかしたら反省していると捉えたのかもしれない。
　しかし、私は反省している訳ではなかった。ずっと別のことを考えていたのである。

「……裏切ったなんて心外ですね。私が、一体いつあなた達を裏切ったというのでしょうか？」
「な、何？」
「あなた達はいつも私に裏切られたなんて言いますけれど、それはあなた達が勝手に期待していただけに過ぎないでしょう。それで裏切られたなんて言われるのは心外です」

　私は、父と母にゆっくりとそう言い放っていた。
　バラルド様に対して啖呵を切ってから、私はずっと考えていた。本当にこのままでいいのかということを。

　私は、この両親にこれからもずっと苦しめられていくだろう。
　百歩譲って、それはまだ許容することができる。耐え忍ぶことは、私にとってそれ程難しいことという訳ではない。

　問題は、この両親の因果が次世代まで続いていくということだ。
　私の子供までこの両親に苦しめられるなど、私は許容することができない。
　故に私は、この因縁を断ち切ることにした。私は、この鳥籠を抜け出すつもりだ。

「バラルド様との婚約なんて、こちらから願い下げさせてもらいます。はっきりと申し上げますが、彼の人格はそれ程良いものではないようですからね」
「な、なんということを言うんだ、お前は！」
「まあ、お父様やお母様とは気が合うかもしれませんが、どちらにしても私はあんな人の妻にはなりたくありませんよ」
「あなた、自分が言っていることがわかっているの？」

　私の反抗に、お父様もお母様も驚いているようだった。
　それは当然だろう。今までの私は、従順だった。それが急に豹変したら、驚きもするだろう。
　しかしながら、二人の動揺なんて私にとってはどうでもいいことだ。むしろ面食らっている内に言いたいことが言えて、好都合なくらいである。

「今まで育ててもらったことには感謝しています。しかしながら、これ以上私はあなた達に付き合っていられません」
「な、なんだと？」
「まあ、出来の悪い私なんてあなた達には必要ないでしょうし、双方にとってこれは良い選択なのではないでしょうか」
「あなた、一体何を……」

　困惑する両親に、私は背を向けた。
　これ以上、この二人に付き合うつもりはない。私は私の道を進む。
　そんなことを思いながら、私は二人の元から歩き始めるのだった。