誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗

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1.期待されず

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 マートン伯爵家において、私は特殊な立場であるといえる。長子として生まれたものの、母が亡くなったことで父が再婚して、私は前妻の子となったのだ。
 そういった場合どうするかは、家々によって異なるものだが、マートン伯爵家は後妻を立てることになった。継母であるティシア様の元に生まれた妹のメセリアが、家を継ぐ婿を迎える立場となったのだ。

 当時七歳だった私は、そのことについてそれ程深く考えてはいなかった。
 ただ十年経った今は、複雑な気持ちである。私は妹に、立場を奪われてしまったのだから。
 とはいえ、それでも私はマートン伯爵家の一員だ。他家に嫁ぐという役目を、全うしよう。そう思っていた。

「……別にお前に期待しているという訳ではない」

 そんな私は、ある時お父様からそのように告げられた。
 それは私にとって、衝撃的なことであった。自身の唯一ともいえる役目に対して、期待していないと言われるなんて、思ってもいなかったからだ。

「お前が婚約などせずとも、マートン伯爵家が万全の形となるように、私は務めるつもりだ」

 お父様の言葉から、私は自分が必要とされていないということを悟った。
 嫁ぐこと以外で、私が役に立つ方法などないというのに、その役目すら私には求められていないなんて。

 それなら私は、どのようにしてマートン伯爵家の役に立てば良いのだろうか。特に何か秀でた点があるという訳でもないのに。

「家のことはメセリアに任せておけ。お前が気にするようなことは何もない」
「何も、ですか……?」
「ああ、気楽に構えていれば良い」

 お父様は、私と目を合わせてくれなかった。
 それは見放されたということなのかもしれない。私はマートン伯爵家にとって、必要がないと判断されたということだろうか。

「話はこれで終わりだ……どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません……」
「そうか……」

 お父様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振った。
 これから自分がどうしていくべきなのか、それをここで考えるのは愚行だ。忙しいお父様の思考を、余計なことに割かせてはならない。

「それでは、これで失礼します」
「ミリーシャ、少し待て」
「え?」

 私が部屋から出て行こうとすると、お父様が呼び止めてきた。
 後ろを向いてみると、神妙な顔をしているお父様が見えた。まさか危惧していたように、お父様に余計なことを考えさせてしまったのだろうか。

「な、なんでしょうか?」
「……最近、体調はどうだ? 悪くなったりはしていないか?」
「あ、ええ、大丈夫ですが……」
「それなら良かった」

 お父様の質問は、少し不可思議なものだった。
 体調の心配なんて、今するようなことなのだろうか。私は別に、直近で体調を崩した訳でもないのに。
 ただ、お父様の話はそれで終わりのようだった。私は少々疑問に思いつつも、お父様の執務室を後にするのだった。
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