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私は、ウェリクス様と話していた。
彼の言葉で、私は目を覚ました。アルキーナ様に従うべきではない。彼女は、主人として定めるべきではない人間だったのだ。
「さて、噂をすれば……」
「失礼いたします」
そんな私の耳に聞こえてきたのは、鋭い女性の声だった。
直後に、浴場の戸が開き、見知った女性と使用人が中に入って来る。
「ウェリクス様、何をしていらっしゃるのかしら? こんな所で、使用人を連れこむなんて、私としては少々気になる行動ですわね」
「こちらの使用人が、怪我をしていたようですから、とりあえずこちらに運ばせてもらいました。客室を使うという手もありましたが、万が一他の客人が来ていてはまずいですから、誰も寄り付かないであろう浴場を使わせてもらうことにしました」
「なるほど、そういうことでしたか……」
アルキーナ様は、ウェリクス様に笑顔を見せていた。それは、表面上のものだろう。きっと内心は、色々と焦っているはずである。
なぜなら、その視線が時よりこちらに向いており、少し焦燥のような感情が読み取れるからだ。恐らく、私が王子に何かを吹き込んでいないかなどと心配しているのだろう。
「あら? リメリア? その足はどうしましたの?」
「え?」
「怪我をしているみたいですが、何かありましたの?」
そこで、アルキーナ様は私に対して質問をしてきた。それは、合図だ。私にこの怪我の理由を偽れというのが、彼女の主張なのである。
少し前の私なら、その言葉に従っていたかもしれない。しかし、今の私は違う。彼女に対して仕えるなどという思考は、私の中から既に消えているのだ。
「おや、アルキーナ様、どうして彼女が足を怪我していると?」
「え? それは、ウェリクス様がそう言ったではありませんか?」
「僕は、彼女が怪我をしているとしか言っていませんよ。それなのに、足を怪我しているとよくわかりましたね?」
「なっ……」
私が答えを出す前に、ウェリクス様が喋り出した。確かに、彼は私が足を怪我しているなどとは言っていない。それをアルキーナ様が言い当てた。会話だけで考えると、それは少しおかしいことである。
だが、本当におかしいのはそこではない。ウェリクス様の指摘に焦っていることが、アルキーナ様がおかしい点である。
「桶に足をつけているから、当然、足の怪我と考えた……のではありませんか?」
「え?」
「状況を見たら、わかりますよね? この状況で、足以外の怪我だなんて考えませんよね?」
ウェリクス様が指摘した通り、彼女には正当な理由があった。この状況は、足を怪我したと思っても別におかしくない状況なのである。
それなのに、焦った。それこそが、彼女のおかしい点なのである。
「まあ、いいでしょう。どうやら、彼女は足をやけどしたそうです。おかしいですよね? 普通に考えて、足の裏をやけどするなんてあり得るでしょうか?」
「……確かに、それは不思議なことですわね」
「例えば、熱を帯びた地面に裸足で立っていたとか、そういうことがなければこんな怪我は負いません。ですが、それを自らの意思で行うはずはありませんね。つまり、誰かが何かをしたと考えるのが妥当でしょう」
「え、ええ、そうですわね……」
ウェリクス様は、焦っている彼女に私の状態を説明した。
私は、彼の意図がなんとなく理解できてきた。ここは、彼に任せるべきだろう。きっと、悪いようにはならないはずだ。
「その犯人が誰なのか、あなたには心当たりがありませんか?」
「さあ……それは、彼女自身の口から聞けばよろしいのではありませんか?」
「彼女は話してくれませんでした。話せないという方が正しいでしょうか? 恐らく、加害者を庇っているのでしょうね?」
「なるほど……残念ながら、私に覚えはありませんわ」
「そうですか……」
当然のことではあるが、アルキーナ様は簡単に口を割るつもりはないようだ。あくまでも、知らぬ存ぜぬを貫くつもりなのだろう。
しかし、そんな彼女に対して、ウェリクス様は余裕そうである。きっと、何か作戦があるのだろう。
彼の言葉で、私は目を覚ました。アルキーナ様に従うべきではない。彼女は、主人として定めるべきではない人間だったのだ。
「さて、噂をすれば……」
「失礼いたします」
そんな私の耳に聞こえてきたのは、鋭い女性の声だった。
直後に、浴場の戸が開き、見知った女性と使用人が中に入って来る。
「ウェリクス様、何をしていらっしゃるのかしら? こんな所で、使用人を連れこむなんて、私としては少々気になる行動ですわね」
「こちらの使用人が、怪我をしていたようですから、とりあえずこちらに運ばせてもらいました。客室を使うという手もありましたが、万が一他の客人が来ていてはまずいですから、誰も寄り付かないであろう浴場を使わせてもらうことにしました」
「なるほど、そういうことでしたか……」
アルキーナ様は、ウェリクス様に笑顔を見せていた。それは、表面上のものだろう。きっと内心は、色々と焦っているはずである。
なぜなら、その視線が時よりこちらに向いており、少し焦燥のような感情が読み取れるからだ。恐らく、私が王子に何かを吹き込んでいないかなどと心配しているのだろう。
「あら? リメリア? その足はどうしましたの?」
「え?」
「怪我をしているみたいですが、何かありましたの?」
そこで、アルキーナ様は私に対して質問をしてきた。それは、合図だ。私にこの怪我の理由を偽れというのが、彼女の主張なのである。
少し前の私なら、その言葉に従っていたかもしれない。しかし、今の私は違う。彼女に対して仕えるなどという思考は、私の中から既に消えているのだ。
「おや、アルキーナ様、どうして彼女が足を怪我していると?」
「え? それは、ウェリクス様がそう言ったではありませんか?」
「僕は、彼女が怪我をしているとしか言っていませんよ。それなのに、足を怪我しているとよくわかりましたね?」
「なっ……」
私が答えを出す前に、ウェリクス様が喋り出した。確かに、彼は私が足を怪我しているなどとは言っていない。それをアルキーナ様が言い当てた。会話だけで考えると、それは少しおかしいことである。
だが、本当におかしいのはそこではない。ウェリクス様の指摘に焦っていることが、アルキーナ様がおかしい点である。
「桶に足をつけているから、当然、足の怪我と考えた……のではありませんか?」
「え?」
「状況を見たら、わかりますよね? この状況で、足以外の怪我だなんて考えませんよね?」
ウェリクス様が指摘した通り、彼女には正当な理由があった。この状況は、足を怪我したと思っても別におかしくない状況なのである。
それなのに、焦った。それこそが、彼女のおかしい点なのである。
「まあ、いいでしょう。どうやら、彼女は足をやけどしたそうです。おかしいですよね? 普通に考えて、足の裏をやけどするなんてあり得るでしょうか?」
「……確かに、それは不思議なことですわね」
「例えば、熱を帯びた地面に裸足で立っていたとか、そういうことがなければこんな怪我は負いません。ですが、それを自らの意思で行うはずはありませんね。つまり、誰かが何かをしたと考えるのが妥当でしょう」
「え、ええ、そうですわね……」
ウェリクス様は、焦っている彼女に私の状態を説明した。
私は、彼の意図がなんとなく理解できてきた。ここは、彼に任せるべきだろう。きっと、悪いようにはならないはずだ。
「その犯人が誰なのか、あなたには心当たりがありませんか?」
「さあ……それは、彼女自身の口から聞けばよろしいのではありませんか?」
「彼女は話してくれませんでした。話せないという方が正しいでしょうか? 恐らく、加害者を庇っているのでしょうね?」
「なるほど……残念ながら、私に覚えはありませんわ」
「そうですか……」
当然のことではあるが、アルキーナ様は簡単に口を割るつもりはないようだ。あくまでも、知らぬ存ぜぬを貫くつもりなのだろう。
しかし、そんな彼女に対して、ウェリクス様は余裕そうである。きっと、何か作戦があるのだろう。
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