使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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 ウェリクス様は、アルキーナ様と話し始めた。
 恐らく、彼は彼女が犯人であるということをこれから証明するつもりだろう。余裕そうな所から、何か作戦でもあるように思える。

「彼女を見つけたのは、この屋敷の廊下です。足に怪我をしている状態で、そこまで動ける訳ではないと考えると、彼女がこうなった現場は、中庭であると考えられます。近くで熱を帯びそうな地面がある場所は、そこしかありません」
「確かに、そうかもしれませんわね……」
「道中、僕は誰ともすれ違いませんでした。ということは、犯人は浴場の方面には歩いて来ていないと考えられます。逆方向に逃げたと考えるのが妥当でしょう」

 ウェリクス様は、状況の整理を始めた。それに対して、アルキーナ様は明らかに嫌そうな顔をしている。
 彼女も、そろそろわかってきているだろう。彼が、自分を犯人だと疑っていることを。

「僕が来ていると、犯人は知っていたのでしょうか? いえ、そんなはずはありませんね。客人が来ている中で、そんな大胆なことをするとは思えません。ということは、犯人は僕が来ているということを知らずに犯行を行ったということです。直後に、僕の来訪を知ったと考えるのが自然でしょう」
「え、ええ……」
「犯人にとって一番嫌なことは、僕に彼女の状態が伝わることだったはずです。他の要素は、ある程度予測できていたかもしれませんが、僕は完全な例外。恐らく、予想していなかった訪問者でしょうから、彼女と会ったらまずいという思考が働いたのではないでしょうか?」

 ウェリクス様は、どんどんと言葉を重ねていった。色々な要素を取り出して、彼はアルキーナ様を追い詰めている。

「それで、犯人は何をするか。とれる行動は二つ。僕を見つけるか、彼女を見つけるか……要するに、犯人は身を翻して、彼女を追ったということになります」
「それで、あなたは何を言いたのですか?」
「彼女を追った犯人が辿り着いたのは、この浴場でした。そして、入ってきて、事実を確かめようとした訳です。そうでしょう? アルキーナ嬢?」

 ウェリクス様は、はっきりと言い切った。
 余裕そうな態度を崩さずに、アルキーナ様を犯人だと断言したのだ。
 それには、流石の彼女も顔を歪めた。だが、すぐにその表情は冷静なものに戻る。恐らく、ウェリクス様の言葉に対する反論を思いついたのだろう。

「おもしろい人ですわね。でも、何も証拠はありませんわ。私を犯人にしたいなら、はっきりとした証拠を突きつけてもらわなければ困ります。推測だけで、彼女を傷つけた犯人にされるなんて、はっきりと言って不愉快ですわ」

 アルキーナ様は、あくまで証拠がないという主張をするつもりのようだ。
 それは、有効な手である。どこまで筋が通っていても、ウェリクス様の主張は推測でしかないのだ。
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