使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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 私は、アルガーン様から話を聞くことになった。
 毒にも薬にもならない話。それは、一体どのような話なのだろうか。

「昔、一人の貴族がいた。その貴族には、代々仕えている使用人一家があった。その貴族もその例に漏れず、その一家の一人が使用人としてつくことになったのだ」
「はい……」

 アルガーン様が話し始めたのは、どこかで聞いたことがある話だった。
 それは恐らく、フェルリンド公爵家と私達マルーク家の話なのではないだろうか。

「二人は、子供の頃から知り合いだった。主人と使用人という関係ではあるが、仲の良い幼馴染とも言い換えることができただろう」
「仲の良い幼馴染……」
「二人は、ともに育ち、やがて恋に落ちた。いつから落ちていたのかは、最早二人にもわからなかったそうだ」
「恋に?」

 アルガーン様の言葉に、私は驚いた。
 その展開が、まったく予想していなかったものだったからだ。
 口調からして、これはアルガーン様の昔話だろう。そこから予想すると、その相手は私の母ということになる。
 まさか、二人がそんな関係だったとは思いもしなかった。母もまったくそんなことは言っていなかったので、私はとても動揺している。

「だが、身分違いの恋はいつか終わりを迎えるものだ。それは、二人もわかっていた。だから、ある時話し合った。お互いの未来のために、この恋を終わりにしようと……」
「それは……」
「やがて、貴族には婚約者ができ、程なくして結婚した。同じくらいの時に、使用人にもいい人が現れた。そちらも、特に問題なく結婚した。二人は、お互いの結婚を祝福した。本当に祝福したのだ。二人の間には、最早迷いなどなかった。これは、紛れもない真実だ」

 二人は結ばれなかった。それは、わかっていたことだ。私の知っている二人の関係が、それを表している。
 これは、悲恋ということなのだろうか。それとも、二人とも納得していたのだから、そうではないのだろうか。

「だが、ある時問題が起きてしまった。不幸にも、使用人とその夫は亡くなってしまった。残されたのは一人の娘……その娘を貴族は支えていくことに決めた。彼女に対する思いが、それを決意させたのだ」
「それって……」
「しかし、それをよく思わない者がいたのだ。貴族の娘は、父親に気にかけられている少女に対して、嫉妬の感情を覚えたらしい」
「嫉妬の感情……」

 アルガーン様が、誰のことを言っているかは明白である。
 アルキーナ様は、私に嫉妬していたようだ。父親から愛を向けられる私を妬んで、彼女はあのようなことをしていたらしい。道理で、他の人には特に何もしない訳である。

「さて、これでくだらない話は終わりだ。付き合わせてしまって、悪かったね」
「いえ……」

 アルガーン様の話によって、私の中に残っていた疑問はなくなった。
 彼女の複雑な心境は、少しだけ理解できる。でも、それで彼女の行動が許されるかといったら、それは別の話だ。
 私は、彼女を許せない。その気持ちは、今も変わっていないのだ。
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