14 / 24
14
しおりを挟む
私の王城での使用人生活は、特に問題なく始まった。そう言えれば、どれだけ良かったのだろうか。実際は、問題だらけの生活が始まってしまったのである。
大方の予想通り、他の使用人達は私のことをよく思っていなかった。そういう人ばかりではないのかもしれないが、少なくとも私が付き合うことになった使用人達はそういう人間だったのだ。
「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんですか?」
「掃除を命じられたのですが、場所がわからなくて、どうか教えていただけませんか?」
「……あなたの担当なら、そこの曲がり角を右に曲がって、次を左に曲がれば辿り着けるわよ」
「そうですか、ありがとうございます」
私の教育係のようなものに任命された彼女は、私のことを快く思っていない。
という訳で、今日のこの質問も素直に答えてくれていないだろう。しかし、他に当てもないため、私は彼女に言われた通りに進む。
「あら? リメリアさん? どうして、こちらに?」
「申し訳ありません。どうやら、場所を間違えてしまったようです」
「あなたに指示された場所は、前の角を右に曲がって、次を左に曲がって、その次を右、さらにその次を左に行けば辿りつけますよ」
「ご親切に、ありがとうございます」
当然のことながら、私が辿り着いた場所は間違った場所だった。
幸いにも、そこにいた人が私を邪険に扱わない人だったため、今度は正しい場所を教えてくれているだろう。彼女は親切な人だ。あの教育係よりも、圧倒的に私のことを着にかけてくれている。
これが、またよく思っていない人だったら、また間違った場所を教えられるか、罵倒されるかのどちらかだ。今回は、幸運だったといえるだろう。
「はあ……え?」
曲がり角を曲がった後、私はバランスを崩すことになった。
その理由は、すぐにわかった。先程の教育係が、私に足をかけたのだ。
どうやら、私のことを待ち伏せていたらしい。考えてみれば、正しい道を教えてくれる人がいることを彼女が把握していてもおかしくはなかった。それで待ち伏せされているかもしれないと思わなかったのは、私の過ちだっただろう。
「あら? 大丈夫? 駄目じゃない。足元には気をつけないと」
「ええ、そうですね……」
「……ふん」
転んだ私は、特に何ということもなく立ち上がった。
正直、彼女達のやり方は非常に陰湿である。だが、耐えられない程ではなかった。
私は以前、悲しいことにこれよりももっとひどいことをされてきた。そのため、こんなことでくじける程やわではないのだ。
とりあえず、私は徹底的に彼女達の行為に反応を示さないことにしている。そうすることが、今は一番効果的だと思っているからだ。
多勢に無勢である以上、こちらから何かを言うのは得策ではないと思った。ウェリクス様やレイドール様に頼るのも、あまりしたくない。という訳で、そういう策になったのだ。
実際、この手は有効だった。彼女達のような人間は、私が反応を示さないと決まってつまらないというような表情をするのだ。
このまま、徹底的に無視し続ける。恐らく、それでいいのだろう。少なくとも今は、それでいいはずだ。
大方の予想通り、他の使用人達は私のことをよく思っていなかった。そういう人ばかりではないのかもしれないが、少なくとも私が付き合うことになった使用人達はそういう人間だったのだ。
「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんですか?」
「掃除を命じられたのですが、場所がわからなくて、どうか教えていただけませんか?」
「……あなたの担当なら、そこの曲がり角を右に曲がって、次を左に曲がれば辿り着けるわよ」
「そうですか、ありがとうございます」
私の教育係のようなものに任命された彼女は、私のことを快く思っていない。
という訳で、今日のこの質問も素直に答えてくれていないだろう。しかし、他に当てもないため、私は彼女に言われた通りに進む。
「あら? リメリアさん? どうして、こちらに?」
「申し訳ありません。どうやら、場所を間違えてしまったようです」
「あなたに指示された場所は、前の角を右に曲がって、次を左に曲がって、その次を右、さらにその次を左に行けば辿りつけますよ」
「ご親切に、ありがとうございます」
当然のことながら、私が辿り着いた場所は間違った場所だった。
幸いにも、そこにいた人が私を邪険に扱わない人だったため、今度は正しい場所を教えてくれているだろう。彼女は親切な人だ。あの教育係よりも、圧倒的に私のことを着にかけてくれている。
これが、またよく思っていない人だったら、また間違った場所を教えられるか、罵倒されるかのどちらかだ。今回は、幸運だったといえるだろう。
「はあ……え?」
曲がり角を曲がった後、私はバランスを崩すことになった。
その理由は、すぐにわかった。先程の教育係が、私に足をかけたのだ。
どうやら、私のことを待ち伏せていたらしい。考えてみれば、正しい道を教えてくれる人がいることを彼女が把握していてもおかしくはなかった。それで待ち伏せされているかもしれないと思わなかったのは、私の過ちだっただろう。
「あら? 大丈夫? 駄目じゃない。足元には気をつけないと」
「ええ、そうですね……」
「……ふん」
転んだ私は、特に何ということもなく立ち上がった。
正直、彼女達のやり方は非常に陰湿である。だが、耐えられない程ではなかった。
私は以前、悲しいことにこれよりももっとひどいことをされてきた。そのため、こんなことでくじける程やわではないのだ。
とりあえず、私は徹底的に彼女達の行為に反応を示さないことにしている。そうすることが、今は一番効果的だと思っているからだ。
多勢に無勢である以上、こちらから何かを言うのは得策ではないと思った。ウェリクス様やレイドール様に頼るのも、あまりしたくない。という訳で、そういう策になったのだ。
実際、この手は有効だった。彼女達のような人間は、私が反応を示さないと決まってつまらないというような表情をするのだ。
このまま、徹底的に無視し続ける。恐らく、それでいいのだろう。少なくとも今は、それでいいはずだ。
18
あなたにおすすめの小説
婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。
aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる