使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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 私の王城での使用人生活は、特に問題なく始まった。そう言えれば、どれだけ良かったのだろうか。実際は、問題だらけの生活が始まってしまったのである。
 大方の予想通り、他の使用人達は私のことをよく思っていなかった。そういう人ばかりではないのかもしれないが、少なくとも私が付き合うことになった使用人達はそういう人間だったのだ。

「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「……なんですか?」
「掃除を命じられたのですが、場所がわからなくて、どうか教えていただけませんか?」
「……あなたの担当なら、そこの曲がり角を右に曲がって、次を左に曲がれば辿り着けるわよ」
「そうですか、ありがとうございます」

 私の教育係のようなものに任命された彼女は、私のことを快く思っていない。
 という訳で、今日のこの質問も素直に答えてくれていないだろう。しかし、他に当てもないため、私は彼女に言われた通りに進む。

「あら? リメリアさん? どうして、こちらに?」
「申し訳ありません。どうやら、場所を間違えてしまったようです」
「あなたに指示された場所は、前の角を右に曲がって、次を左に曲がって、その次を右、さらにその次を左に行けば辿りつけますよ」
「ご親切に、ありがとうございます」

 当然のことながら、私が辿り着いた場所は間違った場所だった。
 幸いにも、そこにいた人が私を邪険に扱わない人だったため、今度は正しい場所を教えてくれているだろう。彼女は親切な人だ。あの教育係よりも、圧倒的に私のことを着にかけてくれている。
 これが、またよく思っていない人だったら、また間違った場所を教えられるか、罵倒されるかのどちらかだ。今回は、幸運だったといえるだろう。

「はあ……え?」

 曲がり角を曲がった後、私はバランスを崩すことになった。
 その理由は、すぐにわかった。先程の教育係が、私に足をかけたのだ。
 どうやら、私のことを待ち伏せていたらしい。考えてみれば、正しい道を教えてくれる人がいることを彼女が把握していてもおかしくはなかった。それで待ち伏せされているかもしれないと思わなかったのは、私の過ちだっただろう。

「あら? 大丈夫? 駄目じゃない。足元には気をつけないと」
「ええ、そうですね……」
「……ふん」

 転んだ私は、特に何ということもなく立ち上がった。
 正直、彼女達のやり方は非常に陰湿である。だが、耐えられない程ではなかった。
 私は以前、悲しいことにこれよりももっとひどいことをされてきた。そのため、こんなことでくじける程やわではないのだ。
 とりあえず、私は徹底的に彼女達の行為に反応を示さないことにしている。そうすることが、今は一番効果的だと思っているからだ。

 多勢に無勢である以上、こちらから何かを言うのは得策ではないと思った。ウェリクス様やレイドール様に頼るのも、あまりしたくない。という訳で、そういう策になったのだ。
 実際、この手は有効だった。彼女達のような人間は、私が反応を示さないと決まってつまらないというような表情をするのだ。
 このまま、徹底的に無視し続ける。恐らく、それでいいのだろう。少なくとも今は、それでいいはずだ。
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