使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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 私は、他の使用人達からの不当な扱いを徹底的に無視することに決めていた。
 今、目の前では私の教育係が悔しそうな顔を浮かべている。こういう表情をするということは、私の作戦は効いているということだ。

「あなた、いい加減にしなさいよ」
「……え?」
「ウェリクス様に気に入られているからって、調子に乗らないでもらいたいわね」

 そんなことを思っていると、教育係が私に声を荒げてそう言ってきた。
 どうやら、私の作戦が功を奏して、彼女の感情が爆発したようである。ここまで来るため、私はずっと耐えてきた。これで、やっと彼女と対等に話ができるのだ。

「私が、調子に乗っていると?」
「調子に乗っていない訳がないでしょう。ウェリクス様から気にかけてもらっているから、私達の行いにもなんとも思っていないでしょう!」
「そんなことは、ありませんよ」
「いつもへらへらして、その顔が気に入らないのよ! 私だけではないわ! ここで働いている全員が、あなたみたい奴が嫌いなのよ!」

 教育係は、感情に任せて私を罵倒してきた。大きな声で、怒りを込めて、私に対して思っていたことをぶつけてきた。
 その必死な形相に対して、私は敢えて笑みを浮かべる。それはきっと、彼女の感情を逆なでしているだろう。

「また、その笑み! 余裕そうに……忌々しい!」
「落ち着いてください。ここで怒っても、あなたに不利益なだけですよ」
「もう我慢ならない……あんたなんか、消えてしまえばいいのよ!」

 教育係は、私に対して激昂して、掴みかかろうとしてきた。
 だが、その体は止められる。後ろから現れた男によって、彼女は取り押さえられたのだ。

「な、あなたは……?」
「事情はよくわかりませんが、王城内でこのような騒ぎを起こすとはいただけませんな」
「ち、違う……私は、ただ……」

 彼女を取り押さえたのは、王城を巡回していた兵士だった。
 大きな声で叫んでいたため、何かが起こっていると思って駆けつけて来てくれたのだろう。
 彼の登場によって、教育係は青ざめていた。今の状況は、彼女にとって非常にまずいものである。私に襲い掛かろうとしたことは、兵士が見ていたはずだ。つまり、彼女は現行犯で捕まったのである。

「とりあえず、双方の話を聞く必要はあるようですな……そちらの方、怪我はありませんか?」
「おかげさまで、なんとか無事みたいです」
「それはよかった。あなたにも話を聞かせてもらいますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」

 兵士の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 とりあえず、これで私に対して降りかかってきた問題は解決に向かいそうだ。色々と大変だったが、無事に終わりそうで何よりである。
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