使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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16(ウェリクス視点)

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 僕は、密かにリメリア・マルークさんを監視していた。
 正確には、彼女の周りの人間を監視していたといえるだろう。
 はっきりと言って、彼女の王城での生活は幸せなものではなかった。数名の使用人から、彼女は明らかに敵意を向けられていたからだ。

 これに関しては、僕が悪いといえる。彼女に寄り添い過ぎたのは、僕の考えが及んでいなかったとしかいいようがない。
 とはいえ、だからといって、あのように明確な敵意を向けるような人間はまともであるとはいえないだろう。彼女達は、元々性格が悪い。少なくとも、僕はそう判断している。

 事実として、何名かの使用人は最初から、また何名かは彼女と接していく内に、敵意というものが薄れていった。色々と複雑な心境だったとしても、彼女本人と接していけば、自然とそうなるのが普通のことだろう。
 しかし、そうならなかった者達がいる。僕が把握しているのは、五人だが、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 不運なことに、リメリアさんの教育係に任命されたのは、その内の一人だった。
 これにより、彼女は苦しい生活を強いられることになってしまったのだ。

 ここで、僕が口を挟むことはできない。それは、事情をややこしくするだけだからだ。
 だが、もしも僕が何か起こった時に偶然通りかかったならば、別にそうはならないだろう。
 そう思ったため、僕はリメリアさんの監視を決意した。暇な時は、こうやって物陰に隠れて彼女を見守っているのである。

「はあ……え?」

 そんな僕が見つけたのは、教育係がリメリアさんに足をかけている光景だった。
 明らかに、それは故意である。ここで出て行けば、あの教育係を糾弾できるだろう。

「待て」
「え?」

 そう思った僕は、とある人物に止められた。
 それは、僕の兄であるレイドールである。

「兄上、何故止めるのです」
「成り行きを見守るのだ。お前が出て行けば、例えこの状況でもいい結果にはならない」
「しかし、僕には責任があります」
「その責任を果たすのは、今ではない」

 兄上の言いたことは、わかっているつもりだ。
 しかし、この決定的な場面を見ていたのは僕だけなのだから、僕が彼女を糾弾しなければならないのである。

「お前は、もしかしたら彼女をかよわい女性だと思っているのかもしれない。だが、それは正しくない。この問題については、彼女に任せる方が得策だと、私は思うがね」
「なんですって?」

 兄上に言われて、僕はリメリアさんを見た。
 よく見てみると、彼女は少し笑っているように思える。この状況で、笑っているということは、彼女に何か意図があるということだ。
 どうやら、僕は兄上の言う通り彼女を侮っていたようである。僕が出て行かなくても、彼女は自らこの問題を解決しようとしているのだ。
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