使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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17(ウェリクス視点)

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 兄上に止められたため、僕は物陰からリメリアさん達を見ていた。
 教育係が激昂して、その声によって兵士が一人駆けつけた時、僕はやっと彼女の行いを理解したのである。
 恐らく、彼女は教育係を敢えて煽ったのだ。それにより、兵士を駆けつけさせて、教育係の逃げ道を封じたのである。

「見事な手際ですね……」

 僕は、思わずそのようなことを呟いていた。
 彼女の手際は、本当に見事なものだった。ここまで簡単に、自身の問題を解決することなど、普通はできないだろう。
 教育係に虐げられながらも、この作戦を考えた彼女の冷静さに、僕は感嘆の感情を隠せない。

「ああ、そうだな……どうやら、彼女は私達が思っていたよりもずっと強い人間だったようだな」
「ええ……彼女を侮っていました。僕が手を貸す必要など、まったくなかったようですね……」

 僕は、自分がリメリアさんを侮っていたことを悟った。
 彼女を助けなければならない。そう思っていた自分は、なんと愚かだったのだろうか。
 彼女は、自分で自分を助ける力を持っている人だ。アルキーナ嬢との事件の印象で、彼女は守るべき存在だと思っていたが、そうではなかったのである。

「確かに、お前は彼女を侮っていただろう。だが、お前が手を貸す必要がまったくないという訳ではない」
「え?」
「あれ程のことができる彼女は、強い人間である。それは間違いないだろう。だが、強い人間だからといって、恐怖や不安を感じないという訳ではない」
「恐怖や不安……」

 僕は、ゆっくりとリメリアさんの方を見た。
 教育係が兵士に捕まってから、彼女は安堵したような表情をしている。その表情を見ていて、僕はやっと兄上の意図に気がついた。
 彼女は、安堵しているのだ。先程までの出来事に、何も感じていない訳ではない。辛く悲しい出来事だったと、確かに思っていたのである。

「……自分の鈍感さが嫌になります」
「ふっ……いや、仕方ないことだろう。この俺は、客観的に見ているからわかるのだ」
「え? 僕も客観的に見ているのではないでしょうか?」
「いや、お前はこの出来事を客観的に見ていない。個人としての感情が、入り込んでいるのだ」
「個人としての感情……」

 兄上に指摘されて、僕は少しだけ理解した。
 確かに、僕は熱くなってしまっている。彼女の側に立って、彼女を助けようとしていた。それは、客観的に見ているとはいえないのかもしれない。

「まあ、後で彼女の元に行くことだな」
「ええ、わかりました……」

 兄上は、私の肩を叩いてそのようなことを言ってきた。
 もちろん、彼女の元には向かうつもりである。僕ができるのかどうかはわからないが、彼女を慰めるのだ。
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