使用人の私を虐めていた公爵令嬢は、婚約者の王子にそれが見つかり婚約破棄されました。その後、私は王城で働かせてもらうことになりました。

木山楽斗

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 兵士からの事情聴取が終わってから、私は王城の廊下を歩いていた。
 なんだか、とても疲れた。それは、当然のことだ。今日の事件は、精神的にも肉体的にも中々に辛いものだった。これで疲れない人なんていないだろう。

「リメリアさん」
「え?」

 そこで、私に声をかけてくる者がいた。
 ゆっくりと振り返ると、そこにはウェリクス様がいた。彼は、少し心配そうな顔をしている。恐らく、彼は私の身に起こった事件のことを知っているのだろう。そうでなければ、こんな顔はしないはずである。

「少し話しませんか?」
「えっと……」

 ウェリクス様の言葉に、私は思わず言葉を詰まらせてしまった。
 この事件の発端は、そもそも彼が私によくしてくれたからだ。もちろん、彼に悪意はなく、私もその善意自体はありがたく思っている。
 だが、その善意に甘えて、彼と親しくすれば、またこういう事件が起こるのではないか。そのように思ってしまったのだ。

「そこの客室で話しましょう。勝手に入る人はいませんから、誰にも見られませんよ」
「あ、はい。それなら……」

 ウェリクス様は、とある客室に入ることを提案してくれた。誰にも見られなければ、反感を買うこともないだろう。
 よく見てみると、周りには人がいない。恐らく、ウェリクス様はその辺りも気遣ってくれたのだろう。
 考えてみれば、彼が事件のことを聞きつけてきたなら、当然その原因はわかっているはずだ。そんな彼が、何も考えずに話しかけてくることなどない。そう考えるべきだったのだ。

「それでは、行きましょうか」
「え、ええ……」

 そこで、私はあることに気づいた。
 誰にも見られていない中で、二人きりで部屋に入る。それは、場合によってはとてもまずいことなのではないだろうか。
 しかし、私は自分のそんな考えを即座に否定した。ウェリクス様は変なことをする人ではない。そういう心配をする必要はないのだ。

 という訳で、私はウェリクス様と客室に入った。
 そもそも、勝手に客室を使ってもいいのだろうか。入ってから、私はそんなことを思っていた。
 だが、それも問題はないだろう。王子が入ってもいいと言っているのだから、それ以上の許可などないはずである。

「リメリアさん、あなたは色々と大変だったようですね……」
「え、ええ、そうですね……色々と大変でした」
「全ては、僕の間違いが原因です。本当に、申し訳ありませんでした」

 ウェリクス様は、入ってすぐに私に頭を下げてきた。
 突然の謝罪に、私は困惑した。だが、どうして謝ったのかはなんとなく理解できる。恐らく、彼は自分が原因であると思って、私に謝罪してきたのだろう。
 原因が彼であることは、確かである。だが、別に彼が悪い訳ではないだろう。彼は善意で行動したのだから、それで謝るなどおかしいことである。

「ウェリクス様のせいではありませんよ。あなたのしたことに、非難されるべき点など一つもないのですから」
「ありがとうございます……しかし、僕はもっと気遣うべきでした。王族としての自覚が足りなかったという他ありません」

 私の言葉を受けても、ウェリクス様は頭を下げたままだった。
 これは、きっと彼が自分の中で解決しなければならないことなのだ。そう思ったので、私はそれ以上何も言えなくなるのだった。
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