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21.一か月ぶりに
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はっきりと言って、私の婚約者選びというものは難航しているようだった。
王家とローレント侯爵家の間に、何か問題があったことは社交界にも知れ渡っている。その状態で、私との婚約は躊躇われるものだ。
それにヴォーラス殿下の失敗があったため、お父様もお母様も相手選びに慎重になっている。様々な要素が絡み合った結果、婚約が決まらないのだ。
「一か月ぶりだな、ラナシア嬢」
「ええ、お久し振りです、ジオルト様……」
そんな中で私は、ノーラン公爵家の領地に足を運んでいた。
リオーラとヴォーラス殿下の一件でできた縁もあって、ノーラン公爵家の主導で行われている慈善活動に、ローレント侯爵家の代表として参加していたのだ。
それが終わってから私は、ジオルト様と挨拶を交わしていた。あの事件から、実に一か月の再会である。
「ラナシア嬢、あなたには感謝している。今日はよく来てくれた。挨拶が終わってからになったことは申し訳ない」
「いえ、ジオルト様も忙しくしていたようですし……」
ナゼルス様とは来た時にすぐ挨拶したのだが、ジオルト様とはそうならなかった。
何か問題があったのか、彼は忙しくしていたようなのだ。ナゼルス様と挨拶した時には、彼もその詳細を知らなかったので、内容は私にもわからない。
「何か問題でもあったのですか?」
「問題という程のことではない。少々小競り合いがあってな。それを諫めていたというだけだ」
「こ、小競り合い?」
「ああ、対立関係という程ではないが、少々関係が悪い貴族が参加していたようなのだ」
「それは大変でしたね……」
貴族によっては、対立関係などができている場合がある。先祖代々因縁があるとか、今代で些細なすれ違いがあったとか、理由は様々だ。
そういった貴族の家に属する者が、顔を合わせた時に争いが起こるというのは、誠に残念なことだが、珍しいことではない。
それの解決というものは、色々と大変なものだろう。私は実際にそれを行ったことはないが、想像するだけでも息が苦しくなる。
「争い自体は、実に下らないものだった。しかし収穫はあったといえる」
「収穫?」
「ああ、フェルダン子爵家の令息、ヘリクスを知っているか?」
「ヘリクス……聞いたことはないかもしれません」
「小競り合いをしていた者達の仲裁に入っていた男だ。なんとも見所がある男だった」
ジオルト様は、笑顔を浮かべていた。
その嬉しそうな笑顔からは、ヘリクス子爵令息との出会いに対する歓喜が伝わってくる。それはどうやら、下らない小競り合いが起こったことを上回る程であるらしい。
王家とローレント侯爵家の間に、何か問題があったことは社交界にも知れ渡っている。その状態で、私との婚約は躊躇われるものだ。
それにヴォーラス殿下の失敗があったため、お父様もお母様も相手選びに慎重になっている。様々な要素が絡み合った結果、婚約が決まらないのだ。
「一か月ぶりだな、ラナシア嬢」
「ええ、お久し振りです、ジオルト様……」
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ジオルト様は、笑顔を浮かべていた。
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