きっと殿下の運命の相手は、私ではなかったのでしょうね。

木山楽斗

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36.身勝手な感情

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「僕は、ドラルク侯爵家の次男だ……家を継ぐ立場にない」

 ディアルス様は、その表情を歪めながらゆっくりと言葉を呟いた。
 彼が今言っていることは、私も知っていることだ。ドラルク侯爵家には彼の他に嫡子がいる。家を継ぐのは、当然その人になるだろう。特に問題がなければ、そうなるのが貴族としては当たり前のことだ。

「次男として生まれただけで、家を継ぐ立場になり得ない。そんな苦しみが、お前達にわかるのか? 僕はずっと悩んでいたんだ。どうすれば、自分という存在の位置を確固たるものにできるのかということにっ……」
「……それが今回のことにどのように繋がるというのだ?」
「わからないのか? エゼルス伯爵家だよ。僕はそれを手に入れなければならなかったんだ。そうしなければ、僕は何も得ることができないんだ」
「ほう……」

 ディアルス様の視線は、私の方に向いている。彼の中では、本当にエゼルス伯爵家が欲しいものであったのだろう。それはその表情から伝わって来る。
 しかしその羨望というものの意味が、私にはよくわからない。別にエゼルス伯爵家――それも私にこだわる必要があったとは思えないのだが。

「……何故、私やエゼルス伯爵家に?」
「エゼルス伯爵家は、ドラルク侯爵家にとって、戦略的に重要な位置にあった。隣接するワンダース侯爵家とは険悪な関係だった。エゼルス伯爵家を手に入れれば、有利に立ち回れると考えた。そこでお前に近づいたというのに……第二王子なんぞと婚約しやがって」

 私の質問に対して、ディアルス様は激昂で返してきた。
 するとラメリオ殿下が、私の前に庇うように立つ。どうやら、ディアルス様の態度に危険を感じたようだ。

「その婚約が破談になったから、改めてエゼルス伯爵家を手に入れるチャンスができたと思っていた。それがなんだ。王太子が味方になるなんて……恵まれ過ぎているんだよ、お前はっ! だからリヴェンドを利用して、どん底に叩き落してやろうと思っていたのに。僕に頭を垂れろ!」
「……黙って聞いていれば、随分と好き放題言ってくれたものだな。しかし、よく理解できたぞ。お前は碌でもない男だということが。いや、それは元よりわかっていたことか」
「な、なんだと……?」
「お前は身勝手な感情から、愚かなことをした。それがわかっていないようだな? 気に入らない男ではあったが、まさかここまで矮小だったとは思っていなかった」

 ディアルス様の荒々しい言葉に対して、ラメリオ殿下は非常に冷めた言葉を返していた。
 それは当然だ。結局の所、彼は私に対する逆恨みにも等しい感情で、今回のような大事を引き起こしたのだから。
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