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44.因縁(ジグール視点)
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「忌々しいことこの上ないことだ。本来であれば、この国は我ら一族のものだったというのに……」
父はいつも言っていた。自分達こそが、この国の支配者であるべきだと。
オルバディオン公爵家が本来の王家であり、コルステル王家が支配する現状は間違っている。それが父の主張であった。
しかしそれは結局の所、敗者の遠吠えでしかない。俺達の先祖は、負けたのだ。コルステル王家の方が王位に相応しかった。それだけのことだ。
いや、それだけなどと片付けることすら烏滸がましいといえるだろうか。オルバディオン公爵家は、慈悲をかけられたのだから。
本来であれば、一族が滅ぼされてもおかしくはなかったはずである。しかしコルステル王家は、そうせずに公爵家の地位さえも与えた。もしも逆の立場だったら、オルバディオン公爵家はそうはしなかっただろう。
そういった所が、王たる一族とそうではない一族の差ということかもしれない。
権力者が清濁併せ持つといっても、結局上に立つ者は清い方が良い。それがこの国に集まった者達の総意だったということだろう。
オルバディオン公爵家は、コルステル王家の慈悲にさえも見下されていると感じて、父の代まで恨みを引きずるような一族だ。そんな一族に、誰がついて行きたいと思うだろうか。
俺はそんな一族の末裔として生を受けた。忌々しいことだが、俺にも確かにオルバディオン公爵家の血が流れているのだ。
「王家の者達など、いつか全員絞首台に送ってやる。ジグール、お前も覚えておけ。奴らの首を一つでも多く取るのがお前の役目なのだ。王女との婚約も、その一環に過ぎない。まずはあの忌々しい娘からだ。向こうもそのつもりだろう。決して油断するなよ?」
「……父上」
「うん? ……うぐっ」
生き残った結果、オルバディオン公爵家は王国内でも王家に次ぐ力を得た。元々コルステル王家に次ぐ二番手だったのだから、それは必然といえるだろう。
派閥としてもオルバディオン公爵家は大きかった。かつての同志などは、未だに当家を支持している家は多い。
それはコルステル王国の混乱の元だといえる。いつ反逆するかわからない勢力を抱えておくなど、危険極まりないことだ。
「ジ、ジグール、お前……何を、している?」
「父上、あなたはもうオルバディオン公爵家に必要ではないということです」
「何を、言って、いる……?」
「あなたは邪魔だ」
実際の所、オルバディオン公爵家に勝ち目などはないだろう。反逆した所で、コルステル王家に敵うことはないはずだ。
彼に成功したとしても、後がない。二大巨頭の衝突によって疲弊した国は、隣国に食い潰されることだろう。これに関しては、逆も同じだ。
何にしてもオルバディオン公爵家の反逆は、この国を潰しその過程で多くの血を流す意味のないことだ。
だがそれでも、父上は実行に移すだろう。我らが一族の悲願は、なんとも下らないものだった。自己のプライドを満足させるためだけの行動を、俺は止めなければならない。
「……そうか。コルステル王家を欺くつもりか」
「……」
「それは確かに、私がいては実行できぬことだろうな。そういえばお前は、表立って奴らと敵対してはいなかった。お前なら懐に入り、寝首をかくことも不可能ではない」
王女エリームとの婚約が決まった時から、俺は覚悟を決めていた。
父の蛮行を止めて、同時にオルバディオン公爵家を終わらせる。それが天に与えられた自らの使命だと、俺は悟ったのだ。
「そういうことなら、私も安心してこの命が捧げられるというものだ。地獄の底でコルステル王家の者達が訪れるのを待つとしよう。くくく……かはっ!」
父は最期の瞬間まで、コルステル王家への恨み言を呟いていた。
父の中にあったのは、憎悪や嫉妬という感情だけだったのだろう。この俺とて、そのための道具に過ぎなかったのかもしれない。
「地獄に行くのは、あなたと俺だけですよ……俺もそう遠くない内に行きますから、ご安心ください」
静かにこと切れる父の前で、俺は改めて決意した。
その決意は、揺らぐことのないものだと思っていた。しかしもしかしたら、年月を経るごとにそれは形骸化していたのかもしれない。
父はいつも言っていた。自分達こそが、この国の支配者であるべきだと。
オルバディオン公爵家が本来の王家であり、コルステル王家が支配する現状は間違っている。それが父の主張であった。
しかしそれは結局の所、敗者の遠吠えでしかない。俺達の先祖は、負けたのだ。コルステル王家の方が王位に相応しかった。それだけのことだ。
いや、それだけなどと片付けることすら烏滸がましいといえるだろうか。オルバディオン公爵家は、慈悲をかけられたのだから。
本来であれば、一族が滅ぼされてもおかしくはなかったはずである。しかしコルステル王家は、そうせずに公爵家の地位さえも与えた。もしも逆の立場だったら、オルバディオン公爵家はそうはしなかっただろう。
そういった所が、王たる一族とそうではない一族の差ということかもしれない。
権力者が清濁併せ持つといっても、結局上に立つ者は清い方が良い。それがこの国に集まった者達の総意だったということだろう。
オルバディオン公爵家は、コルステル王家の慈悲にさえも見下されていると感じて、父の代まで恨みを引きずるような一族だ。そんな一族に、誰がついて行きたいと思うだろうか。
俺はそんな一族の末裔として生を受けた。忌々しいことだが、俺にも確かにオルバディオン公爵家の血が流れているのだ。
「王家の者達など、いつか全員絞首台に送ってやる。ジグール、お前も覚えておけ。奴らの首を一つでも多く取るのがお前の役目なのだ。王女との婚約も、その一環に過ぎない。まずはあの忌々しい娘からだ。向こうもそのつもりだろう。決して油断するなよ?」
「……父上」
「うん? ……うぐっ」
生き残った結果、オルバディオン公爵家は王国内でも王家に次ぐ力を得た。元々コルステル王家に次ぐ二番手だったのだから、それは必然といえるだろう。
派閥としてもオルバディオン公爵家は大きかった。かつての同志などは、未だに当家を支持している家は多い。
それはコルステル王国の混乱の元だといえる。いつ反逆するかわからない勢力を抱えておくなど、危険極まりないことだ。
「ジ、ジグール、お前……何を、している?」
「父上、あなたはもうオルバディオン公爵家に必要ではないということです」
「何を、言って、いる……?」
「あなたは邪魔だ」
実際の所、オルバディオン公爵家に勝ち目などはないだろう。反逆した所で、コルステル王家に敵うことはないはずだ。
彼に成功したとしても、後がない。二大巨頭の衝突によって疲弊した国は、隣国に食い潰されることだろう。これに関しては、逆も同じだ。
何にしてもオルバディオン公爵家の反逆は、この国を潰しその過程で多くの血を流す意味のないことだ。
だがそれでも、父上は実行に移すだろう。我らが一族の悲願は、なんとも下らないものだった。自己のプライドを満足させるためだけの行動を、俺は止めなければならない。
「……そうか。コルステル王家を欺くつもりか」
「……」
「それは確かに、私がいては実行できぬことだろうな。そういえばお前は、表立って奴らと敵対してはいなかった。お前なら懐に入り、寝首をかくことも不可能ではない」
王女エリームとの婚約が決まった時から、俺は覚悟を決めていた。
父の蛮行を止めて、同時にオルバディオン公爵家を終わらせる。それが天に与えられた自らの使命だと、俺は悟ったのだ。
「そういうことなら、私も安心してこの命が捧げられるというものだ。地獄の底でコルステル王家の者達が訪れるのを待つとしよう。くくく……かはっ!」
父は最期の瞬間まで、コルステル王家への恨み言を呟いていた。
父の中にあったのは、憎悪や嫉妬という感情だけだったのだろう。この俺とて、そのための道具に過ぎなかったのかもしれない。
「地獄に行くのは、あなたと俺だけですよ……俺もそう遠くない内に行きますから、ご安心ください」
静かにこと切れる父の前で、俺は改めて決意した。
その決意は、揺らぐことのないものだと思っていた。しかしもしかしたら、年月を経るごとにそれは形骸化していたのかもしれない。
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