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3.夫からの罵倒
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ダンカー子爵は子爵として優れた人物ではなかった。
彼は私を引き取る以前から家の財産を食い潰しており、それは私が十八歳になる頃には深刻な問題となっていた。
そこでダンカー子爵家が頼ったのが、マークス侯爵家である。ダンカー子爵夫人は、マークス侯爵夫人の妹であり、その繋がりから支援を求めたのだ。
人格者として知られるマークス侯爵は、妻の妹が嫁いだ家の危機も見逃すことはできなかったようである。
結果として、私はマークス侯爵家の長男であるマルガン様の元に嫁ぐことになった。それは、ダンカー子爵家を救うためだけの結婚だ。
「父上は愚かなものだ。いくら母上の叔母上が嫁いだ家とはいえ、結局の所は他人……その家のために、この僕の妻がお前のような汚らわしい女になるなどあり得ない」
マルガン様は、この結婚に対して不満を持っているようだった。
その不満を彼は、私にぶつけてきた。彼のそういった所は、父に似ている。血縁関係はない二人だが、私には重なって見えた。
「どこの誰とも知らない母親を持つお前が、誇り高きマークス侯爵家に入ってくるなど、どういった了見なのだ。おい、なんとか言ったらどうなんだ?」
「……」
「そうやって黙っていれば、何もされないとでも思っているのか? ふんっ、いかにも下賤な平民の血を引く者が考えそうなことだ。母親から学んだのか?」
マルガン様がそういった面を見せるのは、主に私の前だけだ。
彼は表向きには、父親に従っている振りをしている。それが何故なのかは、よくわからない。
ただマークス侯爵は、優しいだけの侯爵でもないと聞く。もしかしたらマルガン様にとって、彼は怖い父親なのかもしれない。
「本来であれば、お前なんかこの手で切り裂いてしまいたいくらいだ。しかしお前などに触れるのは汚らわしいことだ。命拾いしたな。自分の汚さを誇るが良い」
マルガン様は、口では色々と言いながらも私に手を出さなかった。
根本的に彼は、小心者なのだろう。私という存在に対して、加虐な思いを抱きながらも、暴力を振るう蛮勇すらもない。そういった所まで、父とそっくりだ。
しかし彼のそういった性質は、私にとってはありがたいものだった。彼からの扱いは父によって慣れていたため、耐えられたのだ。
父のためにダンカー子爵家を助けるつもりは毛頭ないが、私に良くしてくれたディオン様のために私は耐えなければならなかった。今のダンカー子爵家を存続させるためには、マークス侯爵家の助けは必須なのだ。
「……僕はこれまで、耐えてきた。自分でも褒めてやりたいくらいだ。お前を妻として耐えられたのは、僕の誇りだ」
「……」
「しかし、そろそろその日々も終わらせるとしよう。僕は父上に進言する。お前を追い出すことを、離婚することをだ。僕は薄々、感じ取っている。父上も母上も、それからミルティアさえもお前のことを歓迎していないということを。ははっ! ははっ!」
マルガン様がそういったことを口にするのは、それが初めてという訳ではなかった。
私も薄々とマークス侯爵家の雰囲気は感じ取っていた。私のことが、それ程歓迎されている訳ではないということを。
しかしそれでも、マークス侯爵という人格者が健在である限り、大丈夫なのではないかと高を括っていた。それは甘い考えだったのかもしれない。
彼は私を引き取る以前から家の財産を食い潰しており、それは私が十八歳になる頃には深刻な問題となっていた。
そこでダンカー子爵家が頼ったのが、マークス侯爵家である。ダンカー子爵夫人は、マークス侯爵夫人の妹であり、その繋がりから支援を求めたのだ。
人格者として知られるマークス侯爵は、妻の妹が嫁いだ家の危機も見逃すことはできなかったようである。
結果として、私はマークス侯爵家の長男であるマルガン様の元に嫁ぐことになった。それは、ダンカー子爵家を救うためだけの結婚だ。
「父上は愚かなものだ。いくら母上の叔母上が嫁いだ家とはいえ、結局の所は他人……その家のために、この僕の妻がお前のような汚らわしい女になるなどあり得ない」
マルガン様は、この結婚に対して不満を持っているようだった。
その不満を彼は、私にぶつけてきた。彼のそういった所は、父に似ている。血縁関係はない二人だが、私には重なって見えた。
「どこの誰とも知らない母親を持つお前が、誇り高きマークス侯爵家に入ってくるなど、どういった了見なのだ。おい、なんとか言ったらどうなんだ?」
「……」
「そうやって黙っていれば、何もされないとでも思っているのか? ふんっ、いかにも下賤な平民の血を引く者が考えそうなことだ。母親から学んだのか?」
マルガン様がそういった面を見せるのは、主に私の前だけだ。
彼は表向きには、父親に従っている振りをしている。それが何故なのかは、よくわからない。
ただマークス侯爵は、優しいだけの侯爵でもないと聞く。もしかしたらマルガン様にとって、彼は怖い父親なのかもしれない。
「本来であれば、お前なんかこの手で切り裂いてしまいたいくらいだ。しかしお前などに触れるのは汚らわしいことだ。命拾いしたな。自分の汚さを誇るが良い」
マルガン様は、口では色々と言いながらも私に手を出さなかった。
根本的に彼は、小心者なのだろう。私という存在に対して、加虐な思いを抱きながらも、暴力を振るう蛮勇すらもない。そういった所まで、父とそっくりだ。
しかし彼のそういった性質は、私にとってはありがたいものだった。彼からの扱いは父によって慣れていたため、耐えられたのだ。
父のためにダンカー子爵家を助けるつもりは毛頭ないが、私に良くしてくれたディオン様のために私は耐えなければならなかった。今のダンカー子爵家を存続させるためには、マークス侯爵家の助けは必須なのだ。
「……僕はこれまで、耐えてきた。自分でも褒めてやりたいくらいだ。お前を妻として耐えられたのは、僕の誇りだ」
「……」
「しかし、そろそろその日々も終わらせるとしよう。僕は父上に進言する。お前を追い出すことを、離婚することをだ。僕は薄々、感じ取っている。父上も母上も、それからミルティアさえもお前のことを歓迎していないということを。ははっ! ははっ!」
マルガン様がそういったことを口にするのは、それが初めてという訳ではなかった。
私も薄々とマークス侯爵家の雰囲気は感じ取っていた。私のことが、それ程歓迎されている訳ではないということを。
しかしそれでも、マークス侯爵という人格者が健在である限り、大丈夫なのではないかと高を括っていた。それは甘い考えだったのかもしれない。
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