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17.決意の侯爵
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「……ち、父上?」
「……」
「た、助けてください。僕の、僕の手が……」
現れた父親に、マルガン様は懇願していた。
周囲を見てみると、ケイティアの傍にマークス侯爵夫人とミルティア嬢がいる。その他の使用人達も、既にこの場に駆けつけていたようだ。
そして息子を冷たく見下ろすマークス侯爵の手には、剣が握られている。それが何を意味するかは、明らかだ。
「マークス侯爵、やめてください」
「レディオル伯爵令息、あなたが言いたいことはわかっています。しかしこれは、マークス侯爵家のけじめの問題だ。どうか許してもらいたい」
「ち、父上……」
レディオル様も状況を悟ったのか、マークス侯爵を制止した。
騎士である彼としては、マルガン様を生きて拘束したいということだろう。野盗の命さえも慮っていた彼らしい言葉だ。
しかしマークス侯爵は、それを強く否定する。その言葉からは、貴族としての覚悟と誇りが感じられる。それにはレディオル様でさえ、怯んでいた。
「……マルガン、お前はいくつもの罪を犯した。その責任は私にもある。すまなかったな」
「父上、何を言っているのです? 僕に罪なんてありません」
「せめてもの情けだ。お前の最後は、この私が決めよう」
「ち、父上……な、何をっ!」
マークス侯爵は、大きく剣を振り上げた。
侯爵としてのけじめ、彼はそれを今ここで着けようとしている。それは堅い意思に基づいた決断なのだろう。
だがそれはあまりにも、悲惨なものだ。彼の目から零れる涙に、私の体は咄嗟に動いていた。
「うわああああっ――」
「待ってください!」
「ぬっ!」
「――え?」
私が前に出て行ったことで、マークス侯爵の剣は止まった。
それは彼自らの意思で止まったものだが、そうでなくともその剣は届かなかっただろう。私の体とマークス侯爵の剣の間に割って入るように、レディオル様が剣を構えているから。
どうやら彼の方も、咄嗟に動いてくれたらしい。ただレディオル様にしては珍しく、その顔には大量の脂汗が滲んでいた。
「い、言った傍から無茶をする人だ……」
「すみません……」
「気持ちはわからない訳ではありませんが……」
レディオル様は、ゆっくりとため息をついた。
彼には申し訳ないことをしてしまったと思う。余計な心配をかけてしまった。
ただその謝罪は、後にするとしよう。今はまず、マークス侯爵に言葉をかけなければならない。
「……何故だ? 何故君がこいつを庇う? マルガンは君にいくつもの非道を働いてきたというのに、それでも君はこいつを庇うというのか?」
「……マルガン様のために、庇った訳ではありません。ただマークス侯爵、あなたに手を汚して欲しくなかったというだけです。マルガン様のために、手を下すなんてそんなのは間違っています。それはあなたの誇りを汚す行為です」
私はマークス侯爵に、素直な気持ちを伝えた。
彼という誇り高き侯爵が、マルガン様のような人間のために息子殺しの汚名を背負うなんて間違っている。そんなのはあんまりだ。
「エリシア……君はどこまでも優しいな。義理とはいえ、君のような娘がいてくれて、私は助かったといえる」
マークス侯爵は、剣を収めてくれた。私の気持ちが、届いたということだろうか。
既に使用人達は、マルガン様の治療を始めている。恐らく彼は助かって、改めて裁きを受けることになるだろう。
それで良いと私は思う。勝手なことかもしれないが、それでも。
「……」
「た、助けてください。僕の、僕の手が……」
現れた父親に、マルガン様は懇願していた。
周囲を見てみると、ケイティアの傍にマークス侯爵夫人とミルティア嬢がいる。その他の使用人達も、既にこの場に駆けつけていたようだ。
そして息子を冷たく見下ろすマークス侯爵の手には、剣が握られている。それが何を意味するかは、明らかだ。
「マークス侯爵、やめてください」
「レディオル伯爵令息、あなたが言いたいことはわかっています。しかしこれは、マークス侯爵家のけじめの問題だ。どうか許してもらいたい」
「ち、父上……」
レディオル様も状況を悟ったのか、マークス侯爵を制止した。
騎士である彼としては、マルガン様を生きて拘束したいということだろう。野盗の命さえも慮っていた彼らしい言葉だ。
しかしマークス侯爵は、それを強く否定する。その言葉からは、貴族としての覚悟と誇りが感じられる。それにはレディオル様でさえ、怯んでいた。
「……マルガン、お前はいくつもの罪を犯した。その責任は私にもある。すまなかったな」
「父上、何を言っているのです? 僕に罪なんてありません」
「せめてもの情けだ。お前の最後は、この私が決めよう」
「ち、父上……な、何をっ!」
マークス侯爵は、大きく剣を振り上げた。
侯爵としてのけじめ、彼はそれを今ここで着けようとしている。それは堅い意思に基づいた決断なのだろう。
だがそれはあまりにも、悲惨なものだ。彼の目から零れる涙に、私の体は咄嗟に動いていた。
「うわああああっ――」
「待ってください!」
「ぬっ!」
「――え?」
私が前に出て行ったことで、マークス侯爵の剣は止まった。
それは彼自らの意思で止まったものだが、そうでなくともその剣は届かなかっただろう。私の体とマークス侯爵の剣の間に割って入るように、レディオル様が剣を構えているから。
どうやら彼の方も、咄嗟に動いてくれたらしい。ただレディオル様にしては珍しく、その顔には大量の脂汗が滲んでいた。
「い、言った傍から無茶をする人だ……」
「すみません……」
「気持ちはわからない訳ではありませんが……」
レディオル様は、ゆっくりとため息をついた。
彼には申し訳ないことをしてしまったと思う。余計な心配をかけてしまった。
ただその謝罪は、後にするとしよう。今はまず、マークス侯爵に言葉をかけなければならない。
「……何故だ? 何故君がこいつを庇う? マルガンは君にいくつもの非道を働いてきたというのに、それでも君はこいつを庇うというのか?」
「……マルガン様のために、庇った訳ではありません。ただマークス侯爵、あなたに手を汚して欲しくなかったというだけです。マルガン様のために、手を下すなんてそんなのは間違っています。それはあなたの誇りを汚す行為です」
私はマークス侯爵に、素直な気持ちを伝えた。
彼という誇り高き侯爵が、マルガン様のような人間のために息子殺しの汚名を背負うなんて間違っている。そんなのはあんまりだ。
「エリシア……君はどこまでも優しいな。義理とはいえ、君のような娘がいてくれて、私は助かったといえる」
マークス侯爵は、剣を収めてくれた。私の気持ちが、届いたということだろうか。
既に使用人達は、マルガン様の治療を始めている。恐らく彼は助かって、改めて裁きを受けることになるだろう。
それで良いと私は思う。勝手なことかもしれないが、それでも。
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