聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私達と魔術師の前に現れたのは、カルリアだった。
 優秀な部下だった彼女は、魔術師達がこちらに襲い掛かって来ないように止めてくれた。
 彼女は、私の話を聞いてくれそうである。これで、無益な戦いが避けられるだろう。

「カルリアさん、どうして?」
「あなた達、少し状況を冷静に見た方がいいわ。彼女があの方を連れてここに戻ってきた。その意味を考えなさい」
「それに、どういう意味が……?」
「それは、これから彼女に聞くのよ」

 カルリアは、とても冷静だった。
 私がヘルゼン様を連れているという状況を、冷静に判断しているのだ。
 彼女は、私に目を向けて来る。言葉通り、説明を求めてくるのだろう。

「まさか、あなたがこちらに戻ってくるなど思っていませんでした。彼によって、あなたは駄目になったと思っていましたから……」
「……あなた達を見捨てて、やめてしまったことは申し訳ないと思っている。私の力が及ばず、ビクトン様を止められなかったことも、ごめんなさい」
「別に、あなたを責めるつもりはありません。あなたは精一杯やってくれました。その結果、折れてしまっても仕方ない環境だったと思います」

 カルリアと話して、私は懐かしい気持ちになっていた。
 私と彼女とは、普通の上司と部下との関係だったはずだ。それなのに、どうしてこのようなことになってしまったのだろうか。
 そう後悔しても、もう遅いのだ。今は、起こってしまったことを解決するしかない。

「……こちらにいるヘルゼン様は、ビクトン様の悪事を聞いて、この王都に戻って来てくれた」
「ヘルゼン様が?」
「彼は、国王様に話を通すと言ってくれている。そうすれば、ビクトン様の悪事も白日に晒されるはずだよ」
「なるほど……そういうことでしたか」

 私は、カルリアにヘルゼン様のことを話した。
 すると、彼女はゆっくりとその目を瞑る。色々な思いが、込み上げてきているのだろう。

「後一歩早ければ……いえ、そういうことを言うのはやめましょうか。そんなことを考えても、無駄なことです」
「……気持ちはわかるよ」
「……私は、これ以上愚かなことを続ける必要はないと思っています。王国全てを揺るがすようなことをしましたが、私達の目的はビクトン様への裁きです。それが果たされるなら、もうこんなことをする必要はないでしょう」

 カルリアは、ゆっくりと目を開いてそう言ってきた。
 その真っ直ぐな視線に、迷いはない。
 それは、彼女の後ろにいる魔術師達も同じである。きっと、皆、本当はこんなことはしたくなかったのだ。だから、手を引くべきだと理解してくれたのだろう。

「私を、首謀者の元に案内してもらえる?」
「ええ、わかりました。ついて来てください」

 私の言葉に、カルリアはゆっくりと頷いてくれた。
 こうして、私達は彼女の案内で、首謀者の元に向かうのだった。
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