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10.婚約者の母親(エルメラ視点)

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「なるほど、あなたがエルメラ嬢という訳ね?」
「……ええ」

 パルキスト伯爵家の男達は、私のことを歓迎していたように思える。
 少なくとも敵意のようなものは感じられなかった。私という偉大な才能との繋がりができることに対して、喜んでいたような気がする。
 しかしながら、ブラッガの母親であるパルキスト伯爵夫人だけは、そうでもなかった。彼女からは、私に対する露骨な敵意が伝わってくる。

「……偉大な才能を持つと聞いていたけれど、見た目はただの小娘ね?」
「……」
「本当にすごい力を持っているのかしら? 本当にブラッガに相応しいものかどうか……」

 パルキスト伯爵夫人は、自分と息子であるブラッガに入れ込んでいるようだった。
 差し詰め、息子の嫁になる者が許せないといった感じだろうか。その敵意の理由が、私はよくわかった。

 しかしながら、パルキスト伯爵夫人の行いは、低俗極まりない。
 いくら息子の結婚が気に入らないからといって、その相手を攻撃して何になるというのだろうか。そんなことをしたら、息子及ぶ自分の家の評価を下げるだけだ。
 まあ、そういったことを考えられない空っぽの頭だから、こんなことをしていると考えるべきだろうか。

「よろしかったら、私の力の一端でもお見せしましょうか? お義母様」
「なっ……!」

 ただ、パルキスト伯爵夫人が短絡的な人間であるということは、私にとって都合がいいことでもある。
 そういった人間は、とても制御がしやすい。今の私の言葉で、私の思い通りに怒っているのが、その証拠だ。

「あ、あなたにお義母様と呼ばれる筋合いはないわ」
「そうですか?」
「……優秀なのかもしれませんが、それで好きなようにできると思わないことね。言っておくけれど、世の中はそんなに甘くないのよ」

 パルキスト伯爵夫人は、私に対して上から目線で言葉をかけてきた。
 だが、その言葉には何の説得力もない。なぜなら、今目の前にいる無駄に年を食っただけの大人が、世の中を舐め切っているからだ。

 お姉様もそうだった訳ではあるが、私はこの屋敷に招かれた息子の嫁である。そんな私に、こんな態度をして許される訳がない。
 そもそもの話、お姉様に失礼な態度をした時点で、今回の縁談は終わりだった。そんなこともわからない時点で、パルキスト伯爵家なんて間抜けの集まりだ。

「何のことを言っているのかはわかりませんが……これから、どうぞよろしくお願いします」
「な、なんですって?」
「ブラッガ様のことは、私がちゃんと支えますから」
「あ、あなた……」

 私は、パルキスト伯爵夫人を大いに煽っておくことにした。
 彼女という人間は、とても利用しやすい。思わぬ収穫に、私は笑みを浮かべるのだった。
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