5 / 26
5.横暴なる王女
しおりを挟む
「……さあ、早く仕事をしなさい」
周囲の魔法使い達にお茶を入れさせたりしながら、ロメリア様は私に命令してきた。
聖女として聖女補佐に命令している。お互いの役職だけを考えれば、それは別におかしくないことだ。
しかし業務ができない聖女が上から目線で命令してくるという現状は、どうも納得できるものではなかった。
「ところで、ここでは何をしているの?」
「あ、はい……国を守る結界を張っています」
「……あなたに聞いた訳ではないのだけれど?」
「あ、すみません」
彼女の疑問の言葉に応えたのは、私ではなく周囲にいた一人の魔法使いだった。
その魔法使いの対応に、ロメリア様は明らかに不満げな声色をしている。
恐らく今の質問は、私に向けられたものだったのだろう。これから結界を張るために集中している私に話しかけるなんて信じられないことではあるが、彼女にはそのようなことは関係ない。
「ラムーナに聞いたのよ? どうしてあなたが答えるの?」
「申し訳ありませんでした。しかしラムーナ様は、今集中されています。結界を張るのは繊細な作業であるため、できれば必要ないことは話しかけるべきではないかと……」
「……私の質問が必要ないって言いたいの?」
「あ、いえ、そういう訳ではありませんが……」
「不快だわ。礼儀というものをわかっていないのかしら?」
ロメリア様の言葉に、周囲の空気は一気に変わった。
辺りに一体に、おかしな緊張が走っている。本来であれば私の張る結界に注意を払う場であるというのに、その場の全員の視線はロメリア様の方に向いている。
「お父様に言って、あなたはクビにしてもらいます」
「そ、そんな……」
「礼儀の一つも知らない人が、この王城で働いているなんて許容できないわ。まあ、精々一から自分を見つめ直して頑張るのね?」
「……」
ロメリア様は、その場の全員が最も恐れていた言葉を口にした。
恐らく、それは冗談の類ではない。きっと彼女は国王様にそれを伝えるだろうし、国王様はその要請を受け入れるはずだ。
彼女の裁量で、魔法使いが仕事を失う。それは、とても恐ろしいことである。だからだろうか、周囲はとても静かになっていた。下手に発言したら、取り返しのつかないことになりかねないからだろう。
「……あなたもクビね?」
「……え?」
「さっきからこっちをちらちら見て不快なのよ。まったく、魔法使いというのは皆礼儀を知らないのかしら?」
しかし、ロメリア様は沈黙すらも許さなかった。
彼女は明らかに無作為に、一人の魔法使いにクビを告げたのである。
その魔法使いの絶望する顔を見ながら、ロメリア様は笑っていた。下卑た彼女の醜悪な笑みに、私は思わず息を詰まらせてしまう。
「……ラムーナ、まだ結界は張れないの?」
「……もう少しお待ちください」
「はあ、時間がかかり過ぎよ。もう少し精進した方がいいんじゃないかしら? そんなことでは、聖女の補佐は務まらないわよ」
「……すみません」
ロメリア様の言葉に、私はとりあえず謝っておいた。
仕事もできない彼女が、どうしてわざわざ現場まで来たのか、私はそれを段々と理解することができていた。
要するに彼女は、遊びに来ているのだろう。この場にいる全員の人生を弄ぶこと、それをロメリア様は心から楽しんでいるのだ。
「……あ、あなたもクビね?」
「え?」
「暇だから、あなたもクビにしてあげる。早く結界を張らないともっとクビが飛ぶかもしれないわね?」
ロメリア様の言葉に、私は結界を急いで張り巡らせることになった。
周囲の魔法使い達も、かなり焦っているのが見て取れる。
彼女にとっては、全て暇潰しなのだろう。誰かのクビを飛ばす。その重みを彼女は理解しているのだろうか。
「……いくらなんでも遅すぎるわね。もう飽きたし、そろそろ部屋に帰るわ」
次の瞬間、ロメリア様は立ち上がって踵を返して部屋から出て行ってしまった。
どうやら、彼女はかなり気まぐれな性格であるらしい。いやそれとも、先程までの言葉は私達を弄んでいたということなのだろうか。
彼女が出て行った後、周囲には安堵の空気が流れた。しかしそれはすぐに切り替わる。彼女の気まぐれによって職を失うことになった三人の浮かない顔を見たことによって。
周囲の魔法使い達にお茶を入れさせたりしながら、ロメリア様は私に命令してきた。
聖女として聖女補佐に命令している。お互いの役職だけを考えれば、それは別におかしくないことだ。
しかし業務ができない聖女が上から目線で命令してくるという現状は、どうも納得できるものではなかった。
「ところで、ここでは何をしているの?」
「あ、はい……国を守る結界を張っています」
「……あなたに聞いた訳ではないのだけれど?」
「あ、すみません」
彼女の疑問の言葉に応えたのは、私ではなく周囲にいた一人の魔法使いだった。
その魔法使いの対応に、ロメリア様は明らかに不満げな声色をしている。
恐らく今の質問は、私に向けられたものだったのだろう。これから結界を張るために集中している私に話しかけるなんて信じられないことではあるが、彼女にはそのようなことは関係ない。
「ラムーナに聞いたのよ? どうしてあなたが答えるの?」
「申し訳ありませんでした。しかしラムーナ様は、今集中されています。結界を張るのは繊細な作業であるため、できれば必要ないことは話しかけるべきではないかと……」
「……私の質問が必要ないって言いたいの?」
「あ、いえ、そういう訳ではありませんが……」
「不快だわ。礼儀というものをわかっていないのかしら?」
ロメリア様の言葉に、周囲の空気は一気に変わった。
辺りに一体に、おかしな緊張が走っている。本来であれば私の張る結界に注意を払う場であるというのに、その場の全員の視線はロメリア様の方に向いている。
「お父様に言って、あなたはクビにしてもらいます」
「そ、そんな……」
「礼儀の一つも知らない人が、この王城で働いているなんて許容できないわ。まあ、精々一から自分を見つめ直して頑張るのね?」
「……」
ロメリア様は、その場の全員が最も恐れていた言葉を口にした。
恐らく、それは冗談の類ではない。きっと彼女は国王様にそれを伝えるだろうし、国王様はその要請を受け入れるはずだ。
彼女の裁量で、魔法使いが仕事を失う。それは、とても恐ろしいことである。だからだろうか、周囲はとても静かになっていた。下手に発言したら、取り返しのつかないことになりかねないからだろう。
「……あなたもクビね?」
「……え?」
「さっきからこっちをちらちら見て不快なのよ。まったく、魔法使いというのは皆礼儀を知らないのかしら?」
しかし、ロメリア様は沈黙すらも許さなかった。
彼女は明らかに無作為に、一人の魔法使いにクビを告げたのである。
その魔法使いの絶望する顔を見ながら、ロメリア様は笑っていた。下卑た彼女の醜悪な笑みに、私は思わず息を詰まらせてしまう。
「……ラムーナ、まだ結界は張れないの?」
「……もう少しお待ちください」
「はあ、時間がかかり過ぎよ。もう少し精進した方がいいんじゃないかしら? そんなことでは、聖女の補佐は務まらないわよ」
「……すみません」
ロメリア様の言葉に、私はとりあえず謝っておいた。
仕事もできない彼女が、どうしてわざわざ現場まで来たのか、私はそれを段々と理解することができていた。
要するに彼女は、遊びに来ているのだろう。この場にいる全員の人生を弄ぶこと、それをロメリア様は心から楽しんでいるのだ。
「……あ、あなたもクビね?」
「え?」
「暇だから、あなたもクビにしてあげる。早く結界を張らないともっとクビが飛ぶかもしれないわね?」
ロメリア様の言葉に、私は結界を急いで張り巡らせることになった。
周囲の魔法使い達も、かなり焦っているのが見て取れる。
彼女にとっては、全て暇潰しなのだろう。誰かのクビを飛ばす。その重みを彼女は理解しているのだろうか。
「……いくらなんでも遅すぎるわね。もう飽きたし、そろそろ部屋に帰るわ」
次の瞬間、ロメリア様は立ち上がって踵を返して部屋から出て行ってしまった。
どうやら、彼女はかなり気まぐれな性格であるらしい。いやそれとも、先程までの言葉は私達を弄んでいたということなのだろうか。
彼女が出て行った後、周囲には安堵の空気が流れた。しかしそれはすぐに切り替わる。彼女の気まぐれによって職を失うことになった三人の浮かない顔を見たことによって。
139
あなたにおすすめの小説
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる