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11.暗雲立ち込める王都

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 結局私は、アムテルドさんに王都で良くないことが起こっていることを伝えた。
 念のためイルガルドには戻って来てもらう方がいい。私達の意見はそのように一致し、すぐに彼に手紙を出すことになった。
 その手紙には、程なくして返信があった。ただその内容は明るいものではない。

「王都から出られそうにない、か……なんというか、奇妙なことになっているみたいだね。これは一体、どういうことなんだろう?」
「人質……ということかもしれません」
「人質?」
「王国側……現在の国王様も水面下で進行している反乱に気付いたということなのだと思います。そして義がどちらにあるかは明らかです。だから、その義を利用しようとしているのではないでしょうか?」
「……なるほど、人質を無視してことを仕掛ければ、大義名分が失われるということか」

 私の予想に、アムテルドさんはゆっくりと頷いた。
 それが合っているのかどうかは、私もよくわかっていない。詳しい事情がわかっている訳でもないし、これは予測の域を出ていない。
 しかしそれでも、私達はこの問題を考えなければならなかった。イルガルドが危機に晒されているという現状は、私達にとって落ち着くことができない事実だからだ。

「どうするべきだろうか?」
「正規の方法で出られない以上、選択肢は二つです。王都の中で大人しくしているか、非正規な方法で出るか……」
「非正規な方法で出た場合は、どうなるのだろうか?」
「もちろん、罰を受けることになります。最悪の場合は、その場で切り捨てられる可能性もあるかもしれません」
「……それなら、大人しくしているのが賢明かもしれないね」
「……そうかもしれませんね」

 考えた結果、私とアムテルドさんはそのような結論を出した。
 王城が作り出した厳重な警備を抜け出すのは、至難の業だ。もちろん不可能という訳ではないだろうが、リスクが高すぎる。
 そもそも王都でまだ騒乱などは起こっていない。それが起こるかも定かではないのだから、ここは大人しくしている方がいいのではないだろうか。

「色々と心配だけれど、仕方ないか……しかし、なんというか王都は本当に奇妙な場所みたいだね?」
「それは今が特別というだけだと思いますけど……」
「いや、この手紙のこの部分を見てもらえないかな?」
「しばらく晴れていない。ずっと黒色の雲が空を覆っている?」
「空も王都の混乱に合わせて曇っているなんてね、何かしらの予兆のようだろう?」
「予兆……」

 アムテルドさんの言葉に、私は少し考えることになった。
 何やら私は、重要な事柄を忘れているような気がする。それは一体なんだっただろうか。
 そういえば私が去った後、聖女の業務はどうなったのだろうか。私の代わりが務まる人なんて、サリーム様くらいだ。当然、彼女は聖女になっていない。ということは、聖女の席は実質的には今空ということになる。

「……私としたことが」
「ラムーナ? どうかしたのかい?」
「アムテルドさん、少し事情が変わりました。私は王都に行ってきます」
「王都に? 急にどうして?」
「私は大きな間違いを犯してしまいました。目の前の事実に注目し過ぎて大局を見誤っていたようです」

 私は聖女補佐をやめる時に、ロメリア様のことを愚かだと思っていた。
 しかし、それは私も同じだったようだ。私が去ることによって何が起こるかを、私は考えられていなかったのである。

「私が王都に行かなければ、イルガルドも危機に晒されます。ですから私は王都に行って、事態を収拾してきます」
「……危険なんじゃないのか?」
「……そうかもしれません。でも私が行かなければならないのです」
「そんな……」
「私はもう立派な魔法使いなんです。ですから止めないでください。これは私の使命のようなものですから」

 心配そうな顔をするアムテルドさんに対して、私は首を振った。
 聖女に選ばれる程の力を持った私には、この事態を収拾する使命がある。私はそれを胸に刻み込むのだった。
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