48 / 50
48.何故そう思ったのか
しおりを挟む
「エルヴァイン公爵には、俺の抗議も左程意味がなかったようだ。のらりくらりと躱されしまった」
「そうですか……まあ、そうなりますよね」
私とバルハルド様は、与えられた客室でお茶にしていた。
公爵家であるため、客室であってもとても広く豪華な部屋だ。このような部屋を与えてもらったことには、感謝しなければならないだろう。
といっても、バルハルド様が不服そうにしている意味も理解できる。私達はまだ正式に結婚しているという訳でもないのだから、このような形は本来取るべきではないだろう。
「それにしても、あなたは本当に良かったのか?」
「ええ、もちろんです。というか、本当に嫌だったら、流石に私も抗議しますよ?」
「……言っておくが、俺は別にあなたとの同室が嫌だったという訳ではない」
「それもわかっています。バルハルド様は紳士ですからね」
バルハルド様は、基本的には礼節などは重んじるタイプである。
宿を取る時も部屋は別にしてくれていたし、私から訪ねなければ、夜に顔を合わせたりすることもない。そういった意味で、ある種一線を保っていたのだ。
その線引きを他者に無理やりに越えさせられたとなれば、怒るのも仕方ないことだろう。
「まあ、今回は大目に見るということで、良いのではありませんか? 何れはこうして、同じ部屋で生活をすることになるのでしょうし……」
「……そのことだが、別に俺は寝室をともにしようと考えてはいなかったのだが」
「え? ああ、言われてみれば、そうする必要もないのでしょうか?」
バルハルド様の指摘に、私は思わず固まっていた。
夫婦であっても、寝室が別。それは珍しいことでもない。というか、ヴォンドラ伯爵家では私もそうだった訳だし。
しかし私は、自然と同じ部屋で過ごすものだとばかり思っていた。両親も兄夫婦も、ファナト様とクルメア様もそうしていると知っているからだろうか。頭が自然と結論を出していたようだ。
さらに言えば、私はバルハルド様から今言われたことに、少し寂しさを覚えている。
どうやら私は、バルハルド様と生活をともにしたいと心から思っているらしい。それはウルガド様の時には、考えもしなかったことだ。
「ふふっ……」
「……リメリア嬢、どうかしたのか?」
「いえ、わかったことがあるのです。とても大切なことを、私は今やっと理解できたような気がします」
「大切なこと?」
私は、思わず笑みを浮かべていた。
自分が今何故そう思ったのか、その理由が理解できたからだ。
その理由は、とても単純なものである。だからこそ笑ってしまったのだ。私は少々、鈍感だったのかもしれない。
「そうですか……まあ、そうなりますよね」
私とバルハルド様は、与えられた客室でお茶にしていた。
公爵家であるため、客室であってもとても広く豪華な部屋だ。このような部屋を与えてもらったことには、感謝しなければならないだろう。
といっても、バルハルド様が不服そうにしている意味も理解できる。私達はまだ正式に結婚しているという訳でもないのだから、このような形は本来取るべきではないだろう。
「それにしても、あなたは本当に良かったのか?」
「ええ、もちろんです。というか、本当に嫌だったら、流石に私も抗議しますよ?」
「……言っておくが、俺は別にあなたとの同室が嫌だったという訳ではない」
「それもわかっています。バルハルド様は紳士ですからね」
バルハルド様は、基本的には礼節などは重んじるタイプである。
宿を取る時も部屋は別にしてくれていたし、私から訪ねなければ、夜に顔を合わせたりすることもない。そういった意味で、ある種一線を保っていたのだ。
その線引きを他者に無理やりに越えさせられたとなれば、怒るのも仕方ないことだろう。
「まあ、今回は大目に見るということで、良いのではありませんか? 何れはこうして、同じ部屋で生活をすることになるのでしょうし……」
「……そのことだが、別に俺は寝室をともにしようと考えてはいなかったのだが」
「え? ああ、言われてみれば、そうする必要もないのでしょうか?」
バルハルド様の指摘に、私は思わず固まっていた。
夫婦であっても、寝室が別。それは珍しいことでもない。というか、ヴォンドラ伯爵家では私もそうだった訳だし。
しかし私は、自然と同じ部屋で過ごすものだとばかり思っていた。両親も兄夫婦も、ファナト様とクルメア様もそうしていると知っているからだろうか。頭が自然と結論を出していたようだ。
さらに言えば、私はバルハルド様から今言われたことに、少し寂しさを覚えている。
どうやら私は、バルハルド様と生活をともにしたいと心から思っているらしい。それはウルガド様の時には、考えもしなかったことだ。
「ふふっ……」
「……リメリア嬢、どうかしたのか?」
「いえ、わかったことがあるのです。とても大切なことを、私は今やっと理解できたような気がします」
「大切なこと?」
私は、思わず笑みを浮かべていた。
自分が今何故そう思ったのか、その理由が理解できたからだ。
その理由は、とても単純なものである。だからこそ笑ってしまったのだ。私は少々、鈍感だったのかもしれない。
296
あなたにおすすめの小説
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。
そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。
しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので
Rohdea
恋愛
昔から目つきが悪いことをコンプレックスにしている
伯爵令嬢のレティーシャ。
十回目のお見合いの失敗後、
ついに自分を受け入れてくれる相手、侯爵令息のジェロームと出逢って婚約。
これで幸せになれる───
……はずだった。
ジェロームとの出逢って三回目の記念日となる目前、“義妹”のステイシーが現れるまでは。
義妹が現れてからの彼の変貌振りにショックを受けて耐えられなくなったレティーシャは、
周囲の反対を押し切って婚約の解消を申し出るが、
ジェロームには拒否され挙句の果てにはバカにされてしまう。
周囲とジェロームを納得させるには、彼より上の男性を捕まえるしかない!
そう結論づけたレティーシャは、
公爵家の令息、エドゥアルトに目をつける。
……が、彼はなかなかの曲者で────……
※『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話に出て来るヒーローの友人? 親友? エドゥアルトにも春を……
というお声を受けて彼の恋物語(?)となります。
★関連作品★
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』
エドゥアルトはこちらの話にも登場してます!
逃走スマイルベビー・ジョシュアくんの登場もこっちです!(※4/5追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる