旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

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48.何故そう思ったのか

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「エルヴァイン公爵には、俺の抗議も左程意味がなかったようだ。のらりくらりと躱されしまった」
「そうですか……まあ、そうなりますよね」

 私とバルハルド様は、与えられた客室でお茶にしていた。
 公爵家であるため、客室であってもとても広く豪華な部屋だ。このような部屋を与えてもらったことには、感謝しなければならないだろう。
 といっても、バルハルド様が不服そうにしている意味も理解できる。私達はまだ正式に結婚しているという訳でもないのだから、このような形は本来取るべきではないだろう。

「それにしても、あなたは本当に良かったのか?」
「ええ、もちろんです。というか、本当に嫌だったら、流石に私も抗議しますよ?」
「……言っておくが、俺は別にあなたとの同室が嫌だったという訳ではない」
「それもわかっています。バルハルド様は紳士ですからね」

 バルハルド様は、基本的には礼節などは重んじるタイプである。
 宿を取る時も部屋は別にしてくれていたし、私から訪ねなければ、夜に顔を合わせたりすることもない。そういった意味で、ある種一線を保っていたのだ。
 その線引きを他者に無理やりに越えさせられたとなれば、怒るのも仕方ないことだろう。

「まあ、今回は大目に見るということで、良いのではありませんか? 何れはこうして、同じ部屋で生活をすることになるのでしょうし……」
「……そのことだが、別に俺は寝室をともにしようと考えてはいなかったのだが」
「え? ああ、言われてみれば、そうする必要もないのでしょうか?」

 バルハルド様の指摘に、私は思わず固まっていた。
 夫婦であっても、寝室が別。それは珍しいことでもない。というか、ヴォンドラ伯爵家では私もそうだった訳だし。
 しかし私は、自然と同じ部屋で過ごすものだとばかり思っていた。両親も兄夫婦も、ファナト様とクルメア様もそうしていると知っているからだろうか。頭が自然と結論を出していたようだ。

 さらに言えば、私はバルハルド様から今言われたことに、少し寂しさを覚えている。
 どうやら私は、バルハルド様と生活をともにしたいと心から思っているらしい。それはウルガド様の時には、考えもしなかったことだ。

「ふふっ……」
「……リメリア嬢、どうかしたのか?」
「いえ、わかったことがあるのです。とても大切なことを、私は今やっと理解できたような気がします」
「大切なこと?」

 私は、思わず笑みを浮かべていた。
 自分が今何故そう思ったのか、その理由が理解できたからだ。
 その理由は、とても単純なものである。だからこそ笑ってしまったのだ。私は少々、鈍感だったのかもしれない。
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