50 / 50
50.これからも隣で
しおりを挟む
薬指にある指輪を見ながら、私は不思議な気持ちになっていた。
以前につけていたものを見た時は、こんな気持ちにはならなかった。それはつまり、この二度目の結婚が私にとっては、幸せなものであることを意味している。
「リメリア嬢、どうかしたのか?」
「バルハルド様、すみません。少し感傷に浸っていました。この指輪を見ていると、なんだか心が安らいで」
「指輪か……確かに不思議なものだ。アクセサリーの類も身に着けたことはあるが、これはそれらとは違うものだな」
引っ越しのための荷解きの最中に手を止めていたからか、バルハルド様が私の元にやって来た。
理由を話すと、同じような思いを語ってくれたが、彼はすぐに表情を切り替える。それは作業がまだ終わっていないからだろう。
「しかしリメリア嬢、いつまでも感傷に浸っていてはいられない。思っていたよりも荷物が多いからな。このままでは寝る場所もままならない」
「そうですね。まあ、私の荷物が多すぎるというか……」
「いや、俺の荷物も大概だ」
私とバルハルド様は、ラプリードの家で暮らすことにした。
色々と話し合ったが、それが一番丸い形だと思ったのだ。
私も彼も、家を継ぐような立場ではない訳だし、いつまでも貴族の屋敷にいられはしない。
バルハルド様には仕事もある訳だし、こちらで暮らすのが一番良い形だ。それは正式に結婚する前から、思っていたことである。
「お兄様やお姉様には、こちらの家はそんなに広くないと言っておいたんですがね……」
「ファナトやクルメアなど、実際に来たことがある。だというのにこれだ。そもそもの話、生活に必要なものは揃っている故に、余計なものなどはいらないと言ったのだが……」
「結婚の祝いに、皆張り切っていたのでしょうね。まあ古くなっているものは変えた方がいいのかもしれませんし……」
「そうだな。しかし、家具などを出すのも一苦労だ」
という訳で引っ越した訳なのだが、お互いの兄弟が張り切った結果、家の中が大変なことになっている。私は現実逃避して、感傷に浸っていたくらいだ。
「エルガドを呼ぶか。奴も欲しいものなどがあるかもしれない……いや、商会そのものに掛け合うか。欲しいものは持ち帰ってもらうとしよう。これは俺達だけは捌ききれん」
「ファナト様やクルメア様には申し訳ありませんが、そうした方が良いですね。このままでは本当に寝る場所にも困りそうですし……」
ただ、これは一応嬉しい悲鳴だといえる。兄弟が結婚を祝福してくれているということなので、悲観することでもないだろう。
事実として、私もバルハルド様も笑っている。今この瞬間も、私達にとっては楽しい時間なのだ。
これからもその楽しい時間は、続いていくだろう。そんなことを思いながら、私は作業を再開するのだった。
END
以前につけていたものを見た時は、こんな気持ちにはならなかった。それはつまり、この二度目の結婚が私にとっては、幸せなものであることを意味している。
「リメリア嬢、どうかしたのか?」
「バルハルド様、すみません。少し感傷に浸っていました。この指輪を見ていると、なんだか心が安らいで」
「指輪か……確かに不思議なものだ。アクセサリーの類も身に着けたことはあるが、これはそれらとは違うものだな」
引っ越しのための荷解きの最中に手を止めていたからか、バルハルド様が私の元にやって来た。
理由を話すと、同じような思いを語ってくれたが、彼はすぐに表情を切り替える。それは作業がまだ終わっていないからだろう。
「しかしリメリア嬢、いつまでも感傷に浸っていてはいられない。思っていたよりも荷物が多いからな。このままでは寝る場所もままならない」
「そうですね。まあ、私の荷物が多すぎるというか……」
「いや、俺の荷物も大概だ」
私とバルハルド様は、ラプリードの家で暮らすことにした。
色々と話し合ったが、それが一番丸い形だと思ったのだ。
私も彼も、家を継ぐような立場ではない訳だし、いつまでも貴族の屋敷にいられはしない。
バルハルド様には仕事もある訳だし、こちらで暮らすのが一番良い形だ。それは正式に結婚する前から、思っていたことである。
「お兄様やお姉様には、こちらの家はそんなに広くないと言っておいたんですがね……」
「ファナトやクルメアなど、実際に来たことがある。だというのにこれだ。そもそもの話、生活に必要なものは揃っている故に、余計なものなどはいらないと言ったのだが……」
「結婚の祝いに、皆張り切っていたのでしょうね。まあ古くなっているものは変えた方がいいのかもしれませんし……」
「そうだな。しかし、家具などを出すのも一苦労だ」
という訳で引っ越した訳なのだが、お互いの兄弟が張り切った結果、家の中が大変なことになっている。私は現実逃避して、感傷に浸っていたくらいだ。
「エルガドを呼ぶか。奴も欲しいものなどがあるかもしれない……いや、商会そのものに掛け合うか。欲しいものは持ち帰ってもらうとしよう。これは俺達だけは捌ききれん」
「ファナト様やクルメア様には申し訳ありませんが、そうした方が良いですね。このままでは本当に寝る場所にも困りそうですし……」
ただ、これは一応嬉しい悲鳴だといえる。兄弟が結婚を祝福してくれているということなので、悲観することでもないだろう。
事実として、私もバルハルド様も笑っている。今この瞬間も、私達にとっては楽しい時間なのだ。
これからもその楽しい時間は、続いていくだろう。そんなことを思いながら、私は作業を再開するのだった。
END
409
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました
柚木ゆず
恋愛
侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。
そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。
しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので
Rohdea
恋愛
昔から目つきが悪いことをコンプレックスにしている
伯爵令嬢のレティーシャ。
十回目のお見合いの失敗後、
ついに自分を受け入れてくれる相手、侯爵令息のジェロームと出逢って婚約。
これで幸せになれる───
……はずだった。
ジェロームとの出逢って三回目の記念日となる目前、“義妹”のステイシーが現れるまでは。
義妹が現れてからの彼の変貌振りにショックを受けて耐えられなくなったレティーシャは、
周囲の反対を押し切って婚約の解消を申し出るが、
ジェロームには拒否され挙句の果てにはバカにされてしまう。
周囲とジェロームを納得させるには、彼より上の男性を捕まえるしかない!
そう結論づけたレティーシャは、
公爵家の令息、エドゥアルトに目をつける。
……が、彼はなかなかの曲者で────……
※『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話に出て来るヒーローの友人? 親友? エドゥアルトにも春を……
というお声を受けて彼の恋物語(?)となります。
★関連作品★
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』
エドゥアルトはこちらの話にも登場してます!
逃走スマイルベビー・ジョシュアくんの登場もこっちです!(※4/5追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
19話に英雄の祖先って書いてありますが子孫では?
勘違いでしたらすみません。
ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。
申し訳、わけありません。 こちらに、何か違う作品の感想を書いてしまいました。
こちらの作品も楽しんで読んでいましたが、なんだか、伯爵家のざまぁ、が少し足らなかったような気がしてます。 主人公が幸せになれて、良かったです。
感想の誤爆についてはお気になさらないでください。
この作品で楽しんでいただけたなら嬉しいです。
ただ至らぬ点があったなら申し訳ありません。
お医者様が、人を殺してはダメだし、死んでく人に醜い言葉を投げるのも、ああ無情。 面白すぎます。
キモイ元旦那では、あるけど、あれが彼の愛のカタチなんでしょうね。 とうてい、理解できないけどね・
感想ありがとうございます。
この作品で楽しんでいただけているなら嬉しいです。