1 / 74
1.心地良い生活
しおりを挟む
ヴェレスタ侯爵アドラス様との結婚は、喜ばしいこととは言えないだろう。
もちろん、フォルファン伯爵家としては、侯爵家との婚約は利益であるといえる。ただ、これはヴェレスタ侯爵夫人が早逝したことでもたらされた結婚だ。この結婚の裏には、深い悲しみがあるということは、決して忘れてはいけないことである。
「フェレティナ、少し良いだろうか?」
「はい、なんですか、アドラス様」
「ロナーダ子爵と領地間の道の整備について話すことになった。いつもは、あちらの方から来てもらっているのでな。偶にはこちらから訪ねることにする。故に、しばらく家を留守にすることになるのだが……」
「わかりました。家のことはお任せください」
アドラス様は、とても紳士的な方だった。
彼は私のことをいつも気遣ってくれている。それは私にとっては、嬉しいことだ。
後妻ということもあって、色々と心配な面もあったが、今の所は特に問題も起こっていない。順風満帆な生活を送れているといえる。
「いつもすまないな。いや、本当に助かっている。君を妻に迎えられたことを嬉しく思っているよ」
「……急にどうされたのですか?」
「改めてお礼を言いたくなったのだ。君が来てから、もう一か月になるだろう。それが区切りという訳でもないが、ありがとうと言っておきたい」
「いえ、私は別に特別なことはしていません。侯爵夫人として、当たり前のことをしているだけですから」
アドラス様が唐突にお礼を述べたため、私は少し驚いてしまった。
しかしもちろん、悪い気はしていない。とても嬉しく思っている。
ただ気になるのは、どうしてそんなことを言ってきたのかということだ。
私はそこに、少し違和感を覚えていた。だが、それは些細なことだろう。偶然そういう気持ちになったのかもしれないし、深く考えても仕方ないことだ。
「それに感謝するのはこちらの方です。アドラス様は、私のことを温かく迎えてくださいました。本当にありがとうございます。感謝しています」
「それこそ当然の義務といえる」
私は、アドラス様にお礼を述べておいた。
いい機会なので、私の方からもそうするべきだと思ったのだ。
それに対して、アドラス様は笑ってくれている。その笑顔を見ていると、私の方も自然と笑みが零れていた。
「さて、それではそろそろ行ってくる。後のことは任せる」
「ええ、いってらっしゃいませ、アドラス様」
私はゆっくりと一礼して、アドラス様のことを見送った。
彼のいない間、しっかりと家を守らなければならない。私はそう思いながら、気を引き締めるのだった。
もちろん、フォルファン伯爵家としては、侯爵家との婚約は利益であるといえる。ただ、これはヴェレスタ侯爵夫人が早逝したことでもたらされた結婚だ。この結婚の裏には、深い悲しみがあるということは、決して忘れてはいけないことである。
「フェレティナ、少し良いだろうか?」
「はい、なんですか、アドラス様」
「ロナーダ子爵と領地間の道の整備について話すことになった。いつもは、あちらの方から来てもらっているのでな。偶にはこちらから訪ねることにする。故に、しばらく家を留守にすることになるのだが……」
「わかりました。家のことはお任せください」
アドラス様は、とても紳士的な方だった。
彼は私のことをいつも気遣ってくれている。それは私にとっては、嬉しいことだ。
後妻ということもあって、色々と心配な面もあったが、今の所は特に問題も起こっていない。順風満帆な生活を送れているといえる。
「いつもすまないな。いや、本当に助かっている。君を妻に迎えられたことを嬉しく思っているよ」
「……急にどうされたのですか?」
「改めてお礼を言いたくなったのだ。君が来てから、もう一か月になるだろう。それが区切りという訳でもないが、ありがとうと言っておきたい」
「いえ、私は別に特別なことはしていません。侯爵夫人として、当たり前のことをしているだけですから」
アドラス様が唐突にお礼を述べたため、私は少し驚いてしまった。
しかしもちろん、悪い気はしていない。とても嬉しく思っている。
ただ気になるのは、どうしてそんなことを言ってきたのかということだ。
私はそこに、少し違和感を覚えていた。だが、それは些細なことだろう。偶然そういう気持ちになったのかもしれないし、深く考えても仕方ないことだ。
「それに感謝するのはこちらの方です。アドラス様は、私のことを温かく迎えてくださいました。本当にありがとうございます。感謝しています」
「それこそ当然の義務といえる」
私は、アドラス様にお礼を述べておいた。
いい機会なので、私の方からもそうするべきだと思ったのだ。
それに対して、アドラス様は笑ってくれている。その笑顔を見ていると、私の方も自然と笑みが零れていた。
「さて、それではそろそろ行ってくる。後のことは任せる」
「ええ、いってらっしゃいませ、アドラス様」
私はゆっくりと一礼して、アドラス様のことを見送った。
彼のいない間、しっかりと家を守らなければならない。私はそう思いながら、気を引き締めるのだった。
497
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。
深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする────
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる