妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?

木山楽斗

文字の大きさ
56 / 74

56.伯父の憎しみ

しおりを挟む
「俺の意見としては、アドラスを見つけ出したい所だ」

 ストーレン伯爵は、私の目を見て言葉を発していた。
 彼は、アドールの方を見ない。父親に対する憎しみを、息子に直接ぶつけたくはないということなのだろう。
 ただ、そんな私の前にアドールが立った。彼はその瞳で、ストーレン伯爵をしっかりと見つめている。

「その意見には、僕も賛成です、伯父様」
「……言っておくが、俺はアドラスを見つけ出したら、抹殺するかもしれん。今更出てこられても、ヴェレスタ侯爵家のためにはならんからな。私怨もある」
「別にそれにも反対するつもりはありません。父上は確かに邪魔者でしかありませんからね」

 アドールは、特に表情を変えることもなく言葉を発している。
 そこには、アドラス様に対する情などは感じられない。本当に、邪魔者として話しているかのようだ。
 いや、実際にそうなのだろう。彼の中では、既に父親との関係は割り切れたものなのかもしれない。その繋がりを重要視しているのは、もしかしたら私やストーレン伯爵の方なのだろうか。

「ただ問題となるのは、父上が今はアドラスという名前ではないということです」
「……アドール、お前はアドラスが船内で殺めた浮浪者と入れ替わっていると言いたいのか?」「ええ、事故の当時の報告において、行方不明となっていなかった何者かと入れ替わっていると考えるべきでしょう。ただ、そこから父上を絞るのは難しいことです」

 アドールは、エルガルスさんから渡された資料を手に取った。
 そこには、事故当初の報告が記載されている。

 それに載っている船から救命ボートで無事に脱出した中の誰かと、アドラス様は入れ替わっているはずだ。女性と入れ替わっている可能性は低いが、それでもかなりの人数の名前が資料には載っている。

 その中からアドラス様を探し出すことは、とても難しい。
 そもそもの話、今となっては名前くらいしかわからない人達だ。エルガルスさん達でも、現在どこで何をしているかなどは知らないだろう。

「言ってしまえば、父上を探し出すのは労力には見合わないと思うのです」
「俺は労力の問題などを、考慮してはいないのだが……」
「そんなことをするよりも、父上を正式に死亡扱いにした方が早いでしょう。今回の一件で、行方不明者は父上とヘレーナ様だけになりました。その二人は、三年前に遺体が見つかっている。つまり亡くなったのは、その二人ということになる」

 アドールは、とても淡々と言葉を発していた。
 その態度に、私は彼が父親の死を処理しようとしているのだと理解した。
 それはヴェレスタ侯爵として、家のことを最も考えて出した結論であるだろう。私はその結論を支持する。そしてそんな彼の母親として、胸を張りたくなった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 公爵令嬢のフィオレンサ・ブリューワーは婚約者のウェイン王太子を心から愛していた。しかしフィオレンサが献身的な愛を捧げてきたウェイン王太子は、子爵令嬢イルゼ・バトリーの口車に乗せられフィオレンサの愛を信じなくなった。ウェイン王太子はイルゼを選び、フィオレンサは婚約破棄されてしまう。  深く傷付き失意のどん底に落ちたフィオレンサだが、やがて自分を大切にしてくれる侯爵令息のジェレミー・ヒースフィールドに少しずつ心を開きはじめる。一方イルゼと結婚したウェイン王太子はその後自分の選択が間違いであったことに気付き、フィオレンサに身勝手な頼みをする──── ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

処理中です...