怠惰な聖女の代わりに業務を担っていた私は、たまの気まぐれで働いた聖女の失敗を押し付けられて追放されました。

木山楽斗

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 私は、馬車に乗せられてとある場所に連れてこられていた。
 ここがどこかは、さっぱりわからない。目隠しをして、ここまで連れてこられたからだ。
 周りは、木々に囲まれている。だから、恐らくここは森の中なのだろう。

「さて、それでは我々はもう行く。何か言い残すことはあるか?」
「言い残すこと?」
「家族や恋人、友に言っておきたいことなどはないのか?」

 騎士の一人が、私にそのようなことを聞いていた。
 幸か不幸か、私には家族も恋人もいない。同僚などに友達はいたが、私を見捨てた人にかける言葉は特になかった。
 だが、一つだけ言いたいことはあった。私を見捨てた国に対する恨み言である。

「きっと、後悔することになりますよ」
「何?」
「カーテナ様を聖女の地位に置いておけば、この国は破滅します。まず、間違いなく……」

 私は、この国の未来についてあることを考えていた。
 その考えを述べると、騎士の一人は顔を歪めた。国を愚弄されたことが気に入られないのか、それとも聖女を侮辱したことを不快に思ったのか。よくわからないが、怒っていることは確かだ。

「貴様、どうやらまったく反省していないようだな」
「……」
「この……」

 騎士の一人が、腕を振り上げてきた。
 私のことを殴ろうとしてきているようだ。
 この程度のことで、人を殴るなど、彼の沸点はかなり低いようである。

「待て」
「うっ……」
「罪人とはいえ、手を出すことは許されない。恥を知れ」
「ぐっ……」
「向こうで頭を冷やしていろ。彼女のことは、私が担当する」

 しかし、騎士の拳が振り下ろされることはなかった。
 別の騎士が、その拳を止めたからである。
 正論を言われたから、怒った騎士は馬車の方に向かって行った。その場に残ったのは、私と冷静な騎士だけである。

「……餞別だ」
「え?」

 冷静な騎士は、私にあるものを渡してきた。
 それは、コンパスである。方角を示すものを、彼は渡してくれたのだ。
 本来、そのようなものは渡してはならない。国外に位置もわからず置き去りにするのが、国外追放だからだ。
 これがあれば、方角がわかる。方角がわかれば、助かる可能性も高くなる。そんなものを渡していいはずがない。

「どうして……」
「私は、お前が罪を犯したとは思っていない。ただ、それだけのことだ」
「それだけ……」

 それだけ言って、騎士は馬車の方に向かって行った。
 これ以上、私と話す気はないようである。
 だが、彼の意図はわかった。これがあれば、私は助かることができる。方角さえわかれば、助かる力を私は有しているのだ。
 心優しき騎士によって、私が助かる可能性はとても高くなるのだった。
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