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 私は、西に向かって歩いていた。
 心優しき騎士のおかげで、常に方角を把握できた。そのため、入り組んだ森でも、一定の方向にあることができているのだ。
 方針としては、レパイア王国の西に位置するエルグレンド王国に向かうことにしている。その王国なら、私を受け入れてくれる可能性があるからだ。

 エルグレンド王国とレパイア王国は、あまりいい関係を築いていない。何かのきっかけで、争いが起こってもおかしくないくらいである。
 そんな王国に何故受け入れてもらえる可能性が高いかというと、私がレパイア王国の内情を知っているからだ。
 交渉材料として、結界などの情報を流せる。それは、かなり有益なものだろう。

 だから、私はエルグレンド王国に向かっている。自分が助かる可能性が一番高い国に、向かっているのだ。
 この行いは、レパイア王国側からすれば咎められる行いだろう。だが、そんなことは知ったことではない。こちらも命がかかっているのだ。きれいごとばかりでは、どうしようもないのである。

 そもそも、私のことを追放した王国のことなど知ったことではない。
 ここまでされて国を愛する心など、私は持ち合わせていないのだ。

「はあ、はあ……」

 そんなことを考えながら、私は歩いていた。
 ひたすら西に向かっていたが、大分疲れてきた。流石に、そろそろ歩くのをやめてもいいだろう。

「よし……そろそろ、いいよね」

 ここまで歩いて来たのには、ある理由があった。
 それは、馬車で去った騎士達から距離を取りたかったからだ。

 私は、徒歩以外にも移動する方法がある。魔法によって、空を飛ぶことができるのだ。
 しかし、それを近くで使えば、騎士達に察知される可能性が高い。そうすると、面倒なことになってしまう。
 できるだけ距離を取れば、彼等に見つかる可能性は低くなる。だから、少しでも距離を稼ぐことにしたのだ。

 結構長い時間歩いていたので、もうそろそろ飛んでもいいはずである。
 これだけ歩いたのだから、もういいだろう。そう思いながら、私は空に飛び上がっていく。

「ふう……」

 木の上まで来て、私は周囲を見渡す。
 見えてくるのは、広大な森である。私は、こんな所に置き去りにされたのか。そう思うと、とても怖くなってくる。

「西……」

 コンパスを見て、私は改めて方角を確認した。
 とりあえず、西に向かう方針は固めている。例え、エルグレンド王国に辿り着けなかったとしても、一定の方向に向かうことをやめるべきではないからだ。
 だから、迷う必要はなかった。私は西へと進んで行く。
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