怠惰な聖女の代わりに業務を担っていた私は、たまの気まぐれで働いた聖女の失敗を押し付けられて追放されました。

木山楽斗

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 私は、リルガー様にレパイア王国の情報を伝えた。
 その情報は、彼から騎士達に伝わり、現場は慌ただしくなっている。
 そんな中で、私はとても冷静になっていた。とても重大なことをしたのに、何故か私は落ち着いているのだ。

「イルアナさん、大丈夫ですか?」
「あ、リルガー様……」

 そんな私に、リルガー様が話しかけてきた。
 彼は、少し心配そうに私を見てくれている。私が、落ち込んでいると思っているのだろう。

「大丈夫です。私、意外と落ち着いているんです」
「そうですか……落ち着いている……」
「まだ、実感が湧いていないのかもしれませんね。争いが起こったら、改めて実感するのかもしれません」

 私は、今の自分をそのように評価していた。
 きっと、私はまだ自分が重大なことをしたことの実感がないのだ。実際に争いが起こっていないため、まだ理解できていないのだろう。

「あなたには、辛い思いをさせてしまいましたね……」
「いえ、リルガー様が謝ることではありません。私が、選んだ道ですから……」
「僕が選ばせたのです。あなたの逃げ道を封じて、僕はあなたに言わせました。だから、あなたが責任を感じる必要はないのですよ」

 リルガー様は、私に優しい言葉をかけてくれる。
 責任は、彼に全てある。そう思わせるために、リルガー様は私を誘導するようなことを言っていたのだろう。
 その優しさは、わかっている。だが、私はその逃げ道に逃げることはできなかった。
 なぜなら、まだ実感が湧いていないからだ。今、彼に何を言われても、私は特に何も思わないのである。色々と心を整理できるのは、戦いが始まってからなのだろう。

「近い内に……戦いが始まるのですね」
「ええ、恐らく、始まると思います。個人の感情としては、争いなど起こすべきではないと思っていますが、今更、エルグレンド王国も引くことはできないでしょう」
「……いつかは、こうなることはわかっていました。隣り合う二つの国の関係が悪いという時点で……」
「悲しいことですね……」

 二つの国は、争いを避けられなかったはずである。
 隣り合う強大な二つの国。敵対視し合う二つの国は、年を増すごとに関係を悪化させていた。後戻りできる訳ではなかったはずである。
 だが、その最後のきっかけは私だったのだ。まさか、自分がそんな存在になるとは思っていなかったことである。
 この紛れもない現実を、私は背負わなければならないのだ。まだ実感は湧いていないが、それは意識しておかなければならないだろう。
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