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32.王都へと

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 結局、お父様はランドラ様を助けないと決めた。
 それは恐らく、私が教えたある事柄が影響しているだろう。結果的に、私はお父様の判断を誘導してしまったのだ。
 だが、これは伝えておくべきことだったように思える。

「さて、姉さん、行こうか?」
「ええ……」

 私は、ソルダスの手を取って馬車に乗る。
 これから私は、王都に向かう。バルギード様の妹ファラリス様と会うために、王都に戻るソルダスとお母様に同行するのだ。
 私もいなくなるので、オンラルト侯爵家はお父様一人ということになる。
 寂しい思いをさせてしまうことになるが、これは仕方ない。それぞれの役割があるのだから、それを果たすのは当たり前のことだ。

「まさか、姉さんが王都に来るなんてね……」
「ええ、私もこんなことになるとは思っていなかったわ」
「ふふ、王都は随分と久し振りなはずよね?」
「ええ、学校を卒業して以来になりますね」

 馬車の中で、私は二人とそのような会話を交わした。
 私も、かつては学校に通っていた。そのため、王都はそれなりに馴染み深い。
 ただ、しばらくの間行っていないので、王都もそれなりに様変わりしている可能性はある。その辺りを聞いてみてもいいかもしれない。

「お母様、王都は何か変わりましたか?」
「大きく変わったことはないわね……」
「そうですか……それは、少し残念ですね。安心できるような気もしますけど」
「まあ、変わらないというのもいいだからね。私なんて、生徒が学校を卒業する度に悲しんでいるもの」
「ああ、それはそうですよね……」

 お母様は、教師として様々な生徒の卒業を見守ってきた。言ってしまえば、毎年変化がある立場なのだ。
 変化というものは、悲しい面もある。いつも別れを経験しているお母様にとっては、変わらない王都というのは嬉しいことなのかもしれない。

「嬉しいことでもあるのだけれどね。それに別れの後には出会いがあるし」
「出会い、ですか……」
「ええ、新入生を迎えるのは楽しいわ」

 お母様は、私に笑顔でそう言ってきた。
 なんだかんだ言って、お母様も教師生活を楽しんでいるようだ。それは、私にとっては安心できることである。

「まあ、その生活もそろそろ終わらせようとは思っているのだけれど……」
「やっぱり、教師を辞めるんですか?」
「ええ、そう思っているわ。多分、今なら後任も見つかるだろうし……」

 お母様は、今回の帰省でお父様と色々と話し合った。
 その結論として、教師生活に幕を下ろすことを決めたようである。
 少し悲しいような気もするが、それがお母様の選んだ道なら祝うべきだろう。少なくともお父様やソルダスにとっては、嬉しいことではあるだろうし。
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