醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗

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 聖なる力というものは、万物を癒す力を持っているらしい。
 ケルド様から文書を借りて、私は自身の力の練習をしていた。とりあえず、庭の木をナイフで傷つけて、その傷を治せるか試している。
 だが、まったくわからない。聖なる力とは、どうやって使うのだろうか。足がかりが掴めず、ただ時間が過ぎるだけである。

「聖なる力……そんなものが、私の身に宿っているの?」

 私は、自分の掌を見つめながら、そう呟いていた。
 自分の体に特別な力が宿っている。その事実は、未だに受け入れられていなかった。
 認識できない力、そんなものをどう受け止めるべきか、私にはわからない。あるかないかもわからないその力に、私は頭を悩ませていた。

「苦戦しているようですわね」
「あっ……」

 そんな私に、話しかけてくる人達がいた。
 いつも通り、お兄様とセリーヌ様である。

「聖なる力か、そんなもの、どうやって使うんだろうな?」
「それを、彼女は今悩んでいますのよ?」
「そっか。そうだよな……でも、それは難しい悩みだな」

 他者から見ても、私が今やっているのは無謀なことであるようだ。
 こんな雲をつかむような作業をしていても、無駄なのかもしれない。いっそのこと、諦めてしまった方がいいのではないだろうか。
 別に、私に聖なる力があるかどうかなんて、それ程重要なことではない。今の生活に、不満がない訳ではないが、このような意味がわからない作業をしてまで、変えたいとは思わないのである。

 これは、ケルド様のことがあるからそう思うのかもしれない。
 彼は、私の痣が聖痕だとわかった後も、差別をなくすための活動をしている。そういう人がいるから、私は自分が特別な存在になることに対して、そこまでやる気ができないのだ。

「お兄様、セリーヌ様、多分、このまま練習しても、私は聖なる力を認識できないと思います」
「あら?」
「え? そうなのか?」
「実を言うと、あまりやる気が出ていないんです。なんというか、今の状況も、そんなに悪いものではないと思っているので……」
「なるほど、まあ、エルーナがそう思っているなら――」
「本当にそれでいいんですの?」
「え?」
「セリーヌ?」

 私の発言に対して、セリーヌ様は少し表情を変えた。
 その表情は、少し怖い。どうやら、彼女は私に怒っているようだ。

「あなたは、わかっていませんわ。あなたの身に、聖なる力が宿っているというなら、特別な存在であるというなら、どれだけ大きなことが成し遂げられると思っていますの?」
「大きなこと?」
「あなたは今、ケルド殿下が働きかけているから、どうでもいいと思っているのかもしれません。ですが、あなたが地位を得れば、それを手助けできますわ。あなたは、自分のような境遇にある者達を助けたいとは思いませんの?」
「それは……」

 セリーヌ様の言葉に、私はめまいがした。
 胸が痛い。自分の消極的で、他人任せな考えが、どうしようもなく嫌になった。
 セリーヌ様の言う通りだ。私が地位を得れば、成し遂げられることがあるかもしれない。同じような境遇の人達を助けるためにも、私は地位を得るべきなのだ。
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