刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗

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76.狙われる竜⑧

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「そうですね……それでは、別の方向から攻めるとしましょうか。転生竜のもう一つの性質について、あなたはどう思われていますか?」
「もう一つの性質?」
「転生の性質ですよ」

 ジャザーンの言葉に、私は少しだけ驚いた。その部分は、私が無性に気になっていた部分だからだ。
 どうして気になっているのかは、自分でもわかっていない。だが、その言葉を聞いただけで、私の体は思わず強張ってしまうのだ。

「おや、何か思う所があるようですね?」
「そ、そんなことはない……」
「そうでしょうか?」

 そんな私の変化に、ジャザーンはすぐに気づいた。私は自分の失敗を悟った。これは、彼に読み取られてはならないことだった。

「転生竜は、何度も転生を重ねている。その事実は、奇妙なものですよねぇ? リルフさんはあのような姿ですが、本当は長い年月を過ごしている。それがあなたも、気になっているのでしょうか?」
「それは……」
「怖いですか? それとも、悲しいのですか? まあ、どちらにしても、あなたの心にリルフさんに対する疑念が芽生えていることは、確かなことであるようですね……」
「そ、そんなことは……」

 ジャザーンの言葉を、私はすぐに否定することができなかった。それは、私自身の心を、彼に言い当てられてしまったからだ。
 転生竜の転生するという性質。そこに私は恐怖、あるいは嫌悪感のようなものを覚えているのだ。

「リルフさん、これがあなたの母親の答えですよ。わかりますか? あなたの母親は、あなたを恐れている」
「お母さん……」
「リ、リルフ……」

 そこで、ジャザーンはリルフに言葉をかけた。その言葉を聞いて、リルフは私の方を見てくる。
 その不安そうな視線に、私はどうすればいいのかわからなかった。この気持ちを誤魔化すこともできず、ただ見つめ返すことしかできないのだ。

「……わかっていたよ。あの話を聞いてから、お母さんはボクから少しだけ距離を取っていたよね」
「え?」
「意識してはいなかったのかもしれないけど……きっと、それがずっと気になっていたんだと思う。ごめん、ボクは……ボクは……」
「リルフ、そんな……」

 リルフは、私の疑念に気づいていたようである。そういえば、最近この子は私に対して少し不安そうな視線を向けてきていた。もしかして、あれは自身を狙う者達への不安ではなかったのだろうか。
 リルフは、私に対して不安を覚えていた。私の心情を察して、心配していてくれていたのだ。
 私は、なんということをしてしまったのだろうか。疑念を抱いただけでなく、それでリルフを不安にさせて。

「私は、私は……」

 私の心と呼応するかのように、辺りには雨が降り始めていた。その冷たさも気にならず、私は己の愚かさを悟っていた。
 私は、一体何をやっていたのだろうか。自分の心の中がぐちゃぐちゃで、よくわからなくなってくる。

「お、お母さん……」
「リルフ?」
「うわああああああ!」

 次の瞬間、リルフは叫びとともに光に包まれた。
 その光には、見覚えがある。あれは、リルフが姿を変える時の光だ。
 リルフの体は光の中で大きくなっていく。だが、それは以前までの姿とは少し違う気がする。

「グルルゥ……」
「あ、あれは……」
「素晴らしい……これで滅びが訪れる」

 現れたのは、大きな竜となったリルフだった。しかし、その肉体は以前とは少し異なっている。
 トカゲのような頭や翼や尻尾という部分は以前を変わっていない。ただ、その体が液体のように溶けているのだ。
 ぽたぽたと、リルフの体からしずくが落ちていく。その様子を、私は茫然と眺めていることしかできなかった。
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