妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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33.訪れた変化

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「ウェリダン……」
「ウェリダンお兄様?」
「ウェリダン兄上……?」

 ウェリダンお兄様の部屋にやって来たお姉様方は、皆驚いたような表情をしていた。
 それは当然のことなのかもしれない。今まで不気味な笑みしか浮かべていなかったウェリダンお兄様が、違った表情を見せているのだから。

「おやおや、これはこれは……」

 ウェリダンお兄様自身も、それについては驚いているようだった。
 彼は先程から、鏡の前で自分の顔を見ている。まだ時々引きつったようなあの不気味な笑みは出て来るが、それでもその他の表情も作れてはいた。

「どういうことなのかしら? ウェリダン、何があったの?」
「……端的に言ってしまえば、僕がクラリアにひどいことをしてしまったのです」
「え? ウェリダンお兄様、何したの?」
「あ、エフェリアお姉様、そんなにひどいことはされていません。少し口論になっただけで……」
「口論? それは一大事じゃないか。ウェリダン兄上、どういうことですか?」

 お姉様方は、ウェリダンお兄様の変化の理由についてかなり興味を抱いているようだった。
 それについては、私も気になっている。どうしてこんなに急に、その表情に変化があったのだろうか。そんなに特別なことは、していないと思うのだが。

「僕自身にもよくわかってはいません。ただ、クラリアは僕の表情について色々と思う所があるようでした。それをぶつけられて、僕の感情は少し昂りました。しかしすぐに後悔したのです。自らの不出来で妹に対して、身勝手な怒りを抱いた訳ですからね」
「その後悔によって、表情が作れるようになったのかしら? ……そういえば、私達はウェリダンとそんな風にぶつかったことはなかったわね」
「ええ、そうですね。皆、僕のことを気遣ってくれましたから。その環境に、僕は甘えていたのかもしれませんね。いつしかあの笑みに慣れて、それで良いと思うようになっていた……」

 ウェリダンお兄様は、眉間に皺を寄せていた。
 それはなんというか、後悔しているような表情だ。それがわかる程に、お兄様の表情は変化している。

「皮肉なものですね。妹を傷つけたという後悔は、僕が欲しかったものを手に入れさせてくれたなんて……素直に喜ぶことはできません」
「……だけれど、それだけあなたの心を揺さぶることだったということなのでしょうね。納得できない訳ではないわ。深い絶望というものも、感情の動きではあるもの」
「あの……私は、そんなに傷ついていませんよ?」

 ウェリダンお兄様とイフェネアお姉様の会話に、私は思わず口を挟んだ。
 二人はさも私を傷つけたという前提で話を進めている。ただそんなことはない。そこまでひどいことをされたとも思っていないのだが。
 結果的にウェリダンお兄様が表情を作れた訳だが、私も喜んでいいのかよくわからなくなっていた。そのため苦笑いを浮かべることしか、できなかったのである。
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