地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?

木山楽斗

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6.楽しい時間を

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「クレイド様は、私のことを探していたのですよね?」
「え? ああ、そうですね……ダンスのパートナーにと思って。しかし、どうしてそれを?」
「ああ、ニヴェルグ様から聞いたのです」
「ニヴェルグですか、なるほど……そうでしたか」

 私の言葉に、クレイド様は苦笑いを浮かべた。
 彼からしてみれば、勝手にダンスのパートナーを明かされたことになるので、そこまで気持ちが良い状況ではないのかもしれない。
 それについては私も申し訳ない気持ちはあるものの、仕方ないことである。ニヴェルグ様は極めて紳士的な理由で、私にそれを打ち明けてくれたのだから。

「ニヴェルグ様を責めないでくださいね。彼は私を私だと認識せずに、ダンスに誘ってきました。それで素性を明かしたら、クレイド様のことを……」
「イルセア嬢のことをわからなかったのですか? いくら以前と違うとはいえ……」
「多分、クレイド様の方が特殊だと思いますよ」
「特殊……そうでしょうか?」
「そうですとも」

 クレイド様は、私を一目で私と見抜いた。
 ただそれは、誰にでもできることではないだろう。周りの様子からして、私が私だとばれていることはないように思える。ニヴェルグ様とクレイド様以外、まだ私の存在は認知されていないはずだ。

「よくわかりましたね。私が私だと」
「……別に僕は、特別なことをしたつもりはありません。イルセア嬢のことを知っているなら、わかるものだと思いますが」
「クレイド様は、人を見る目があるのでしょうね。それはすごいことだと思います。同時にわかってもらえって、嬉しいです」
「喜んでもらえたなら良かったですが、少し釈然としませんね……」

 クレイド様が私をきちんと認識してくれた。その事実は、とても嬉しいものだった。
 彼は私のことを、しっかりと見てくれていたのだろう。私が特別という訳でもないとは思うが、それでも少し舞い上がってしまう。

 そんな風に少し浮かれた私は、会場の空気が少し変わってきているのを感じた。
 それは、ダンスが始まる予兆だろう。色々と話している内に、時間がかなり経っていたらしい。

「……そろそろダンスが始まりますね」
「そうですね……さて、既に知られている状態で言うのもなんですが、イルセア嬢、僕と踊っていただけませんか?」
「もちろん、喜んで。クレイド様、よろしくお願いします」

 クレイド様は、私の言葉に応えて手を差し伸べてくれた。
 私はその手を取る。彼とのダンスの時間は、楽しいものになりそうだ。
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