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34.届いた手紙

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「……まさか、こんな手紙が届くなんてね?」
「恐れてしまったことが、起こってしまったということか……」
「ええ、近況報告なんて生易しいものではないでしょうね……」

 私の元に、エルシエット伯爵家からの手紙が届いた。
 その手紙の封筒を見ながら、私はギルバートと話していた。当然のことながら、二人とも気分は重い。この手紙は、届かいないと思っていたものだからだ。
 両親や妹が、叱咤激励の言葉を綴っているとは思えない。十中八九、余計なことが書いてあると考えていいだろう。

「まあ、読んでみるしかないけれど…………これは?」
「……どうかしたのかい?」
「ああいえ、いきなり予想外の内容で……」

 そう思って手紙を読んだ私は、文面の綺麗さに驚くことになった。
 冒頭から私に対する罵倒の言葉が綴られていると思ったが、そこには丁寧な前置きが記されている。
 定型文のようなものではあるが、そんなものが書いてあるなんて想像もしていなかった。私が出て行ってから大分経っているので、エルシエット伯爵家の面々も何か心境の変化でもあったということだろうか。

「……ああ」
「アルシエラ?」
「ギルバート、読んでみて。一瞬血迷ったことを考えてしまったけれど、やっぱり人というものはそう簡単に変わらないみたい」
「ほう……ああ、なるほど、これは確かに良い手紙ではないな」

 手紙を見て、ギルバートは目を丸めていた。
 それは、当然のことだろう。手紙の内容は非常に不快なものであるが、私も驚いている。その手紙は、普通に考えるとまず送られてくるはずがないものなのだ。

「驚いたな。まさか貴族がお金の無心なんて……」
「ええ、そうなのよ。なんというか、エルシエット伯爵家はお金に困っているみたいね? 一体何があったのかしら?」
「伯爵は浪費家だったのかい?」
「いいえ、そういう訳ではなかったと思うけれど」

 手紙には、金の無心が綴られていた。
 恐らく私が成功しているという記事を見て、金づるになるとでも思ったのだろう。なんとも、みっともないものである。
 ただ、エルシエット伯爵家が私に頼らざるを得ない程にお金を失う理由がわからない。一体あの家で、何が起こったというのだろうか。

「調べてみる必要があるだろうか?」
「そうね……よくわからないけれど、相手が仕掛けてきた以上、こちらも動いた方がいいのでしょうね?」
「よし、それなら僕の方から各所に聞いてみるよ。何人か辿れば、きっと情報は手に入るだろう」
「ええ、お願いするわ」

 私の言葉に、ギルバートはゆっくりと頷いてくれた。
 本当にこの夫は頼りになる。私はそんなことを思うのだった。
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