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39.屈辱的な選択(モブ視点)
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「……私の娘に、アルシエラという者がいる。取り立てなら、その娘の所に行け」
バランドの提案に、エルシエット伯爵は辛うじてそのよう言葉を返した。
領地を売り払う。それは彼にとって、最も取りたくない手段であった。
それは再起の可能性が潰える選択肢であり、何よりも屈辱的な選択肢だからだ。
周囲の貴族達に、頭を下げて交渉する。プライドの高い彼にとって、それは避けたいことなのだ。
「商人として大成した娘さんのことですか?」
「……ああ、その通りだ」
「縁を切ったのでしょう?」
「……何?」
バランドの言葉に、伯爵は驚いた。その事実を、彼が知っているとは思っていなかったからだ。
しかしながら、エルシエット伯爵は思った。例えその事実をバランドが知っていたとしても、自分が提案するべきことは変わらないと。
「例え、私が娘と縁を切っていたとしても、お前達がそのようなことを考慮する訳がないだろう。いいから、あの娘から取り立てろ」
「申し訳ありませんが、アルシエラ・エルセデスの元に取り立てには行きません。それが、こちらの決定です」
「なんだと?」
困惑するエルシエット伯爵に、バランドは少し怒ったような表情を見せた。
彼はゆっくりと立ち上がり、エルシエット伯爵を見下す。その目は、冷たい目であった。
「まあ、彼女を敵に回したくはないという理由もありますが……俺達だってね、義理や人情ってものが完全にない訳じゃないんですよ?」
「な、なんだと?」
「あんたは屑だ。俺達と同類なんだよ。貴族などという人の上に立つに相応しい人間じゃない」
バランドは、不快感をあらわにしていた。
あくどい金貸しの彼ではあるが、それでもエルシエット伯爵の身勝手極まりない主張に怒りを覚えているようだ。
「貴様、誰に向かって口を聞いている……この私は、貴様なんかよりも遥かに地位がある者なのだぞ?」
「なら、その地位とやらに縋ってみてくださいよ。既に財力もないあなたを、助けてくれる人がいるかどうか、試してみたらいいじゃないですか?」
「ぐっ……」
バランドの言葉に、エルシエット伯爵は怯んだ。
彼も、わかっていたのである。今の自分を助けてくれる人なんて、誰もいないということを。
故に伯爵は、その拳を握り締めた。バランドの提案に従うしかないということが、彼にとって非常に屈辱的なことだった。
しかしながら、従わなければどうなるのかは既にディクソンがその身をもって証明している。流石に命が惜しい彼は、生きるためにその地位を捨てることを選択したのだ。
バランドの提案に、エルシエット伯爵は辛うじてそのよう言葉を返した。
領地を売り払う。それは彼にとって、最も取りたくない手段であった。
それは再起の可能性が潰える選択肢であり、何よりも屈辱的な選択肢だからだ。
周囲の貴族達に、頭を下げて交渉する。プライドの高い彼にとって、それは避けたいことなのだ。
「商人として大成した娘さんのことですか?」
「……ああ、その通りだ」
「縁を切ったのでしょう?」
「……何?」
バランドの言葉に、伯爵は驚いた。その事実を、彼が知っているとは思っていなかったからだ。
しかしながら、エルシエット伯爵は思った。例えその事実をバランドが知っていたとしても、自分が提案するべきことは変わらないと。
「例え、私が娘と縁を切っていたとしても、お前達がそのようなことを考慮する訳がないだろう。いいから、あの娘から取り立てろ」
「申し訳ありませんが、アルシエラ・エルセデスの元に取り立てには行きません。それが、こちらの決定です」
「なんだと?」
困惑するエルシエット伯爵に、バランドは少し怒ったような表情を見せた。
彼はゆっくりと立ち上がり、エルシエット伯爵を見下す。その目は、冷たい目であった。
「まあ、彼女を敵に回したくはないという理由もありますが……俺達だってね、義理や人情ってものが完全にない訳じゃないんですよ?」
「な、なんだと?」
「あんたは屑だ。俺達と同類なんだよ。貴族などという人の上に立つに相応しい人間じゃない」
バランドは、不快感をあらわにしていた。
あくどい金貸しの彼ではあるが、それでもエルシエット伯爵の身勝手極まりない主張に怒りを覚えているようだ。
「貴様、誰に向かって口を聞いている……この私は、貴様なんかよりも遥かに地位がある者なのだぞ?」
「なら、その地位とやらに縋ってみてくださいよ。既に財力もないあなたを、助けてくれる人がいるかどうか、試してみたらいいじゃないですか?」
「ぐっ……」
バランドの言葉に、エルシエット伯爵は怯んだ。
彼も、わかっていたのである。今の自分を助けてくれる人なんて、誰もいないということを。
故に伯爵は、その拳を握り締めた。バランドの提案に従うしかないということが、彼にとって非常に屈辱的なことだった。
しかしながら、従わなければどうなるのかは既にディクソンがその身をもって証明している。流石に命が惜しい彼は、生きるためにその地位を捨てることを選択したのだ。
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