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12.不気味な王子
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「イルガン殿下、いらっしゃっていたのですか」
「取り繕わなくても結構ですよ。ここには事情を知る者しかいないのですからね」
「なるほど、それならいつも通りいかせてもらおうかな」
イルガン殿下は、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
彼は、私の隣に並ぶ。それは別になんてことのないことなのだが、何故か私は不気味さを感じていた。
「そんなに怯える必要はないでしょう?」
「あ……え?」
「別に取って食おうとしている訳ではないのですから」
縮こまっていた私は、イルガン殿下の動きに反応できなかった。
気が付いた時には、彼の顔を見上げる形となっていた。イルガン殿下は私の顎を引き、強引に上を向かせたのだ。
「……なるほど、確かにあなたから王家の血筋を感じますね。忌々しいことではありますが、どうやら間違いないようだ」
「い、忌々しい……」
「彼に色々と吹き込まれていたようですが、あなたの存在は王位に影響を及ぼすものです。私にとっては目障りで仕方ない。余計な混乱をもたらすのですから」
イルガン殿下の言葉に、私はゆっくりと息を呑む。
自分が歓迎されるような存在ではない。アゼルトお兄様やクロードお兄様が優しかったから忘れかけていたが、それを思い出したのだ。
事実を改めて突きつけられることは、辛いことであった。
ただそれは、向き合っていくしかないことなのだろう。自身の出自は、今更変えられるものでもないのだから。
「ふむ……」
少し気落ちした後、なんとか持ち直した私は、いつまで経ってもイルガン殿下がその手を離してくれないことに気付いた。
改めて正面にある顔を見ていると、目を細めて私を舐め回すように見ていることに気が付いた。それはなんとも、不可思議で不気味な動きである。
「美しい……」
「……え?」
しばらくの沈黙の後、やっと言葉を発したイルガン殿下は、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
その笑みは、先程までにも増して不気味なものである。思わず背筋に寒気が走った。
ただ直後に、彼が発したのが称賛の言葉であるという事実に気付いた。それでよくわからなくなって、私はクロードお兄様の方に助け舟として視線を送る。すると苦笑いが返ってきた。
「流石は私の妹……なんとも美しい。この美しさは、罪だっ!」
イルガン殿下は、私の顎から手を離して頭を抱えて慟哭した。
その突然の動作に、私は唖然とする。彼の雰囲気が、先程までとは違ったからだ。
しかしクロードお兄様はずっと苦笑いを浮かべているし、多分これは珍しいことではないのだろう。私はイルガン殿下のことが、一気にわからなくなっていた。
「取り繕わなくても結構ですよ。ここには事情を知る者しかいないのですからね」
「なるほど、それならいつも通りいかせてもらおうかな」
イルガン殿下は、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
彼は、私の隣に並ぶ。それは別になんてことのないことなのだが、何故か私は不気味さを感じていた。
「そんなに怯える必要はないでしょう?」
「あ……え?」
「別に取って食おうとしている訳ではないのですから」
縮こまっていた私は、イルガン殿下の動きに反応できなかった。
気が付いた時には、彼の顔を見上げる形となっていた。イルガン殿下は私の顎を引き、強引に上を向かせたのだ。
「……なるほど、確かにあなたから王家の血筋を感じますね。忌々しいことではありますが、どうやら間違いないようだ」
「い、忌々しい……」
「彼に色々と吹き込まれていたようですが、あなたの存在は王位に影響を及ぼすものです。私にとっては目障りで仕方ない。余計な混乱をもたらすのですから」
イルガン殿下の言葉に、私はゆっくりと息を呑む。
自分が歓迎されるような存在ではない。アゼルトお兄様やクロードお兄様が優しかったから忘れかけていたが、それを思い出したのだ。
事実を改めて突きつけられることは、辛いことであった。
ただそれは、向き合っていくしかないことなのだろう。自身の出自は、今更変えられるものでもないのだから。
「ふむ……」
少し気落ちした後、なんとか持ち直した私は、いつまで経ってもイルガン殿下がその手を離してくれないことに気付いた。
改めて正面にある顔を見ていると、目を細めて私を舐め回すように見ていることに気が付いた。それはなんとも、不可思議で不気味な動きである。
「美しい……」
「……え?」
しばらくの沈黙の後、やっと言葉を発したイルガン殿下は、頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
その笑みは、先程までにも増して不気味なものである。思わず背筋に寒気が走った。
ただ直後に、彼が発したのが称賛の言葉であるという事実に気付いた。それでよくわからなくなって、私はクロードお兄様の方に助け舟として視線を送る。すると苦笑いが返ってきた。
「流石は私の妹……なんとも美しい。この美しさは、罪だっ!」
イルガン殿下は、私の顎から手を離して頭を抱えて慟哭した。
その突然の動作に、私は唖然とする。彼の雰囲気が、先程までとは違ったからだ。
しかしクロードお兄様はずっと苦笑いを浮かべているし、多分これは珍しいことではないのだろう。私はイルガン殿下のことが、一気にわからなくなっていた。
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