まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗

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31.勇気がいること

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 廊下を歩いていると思うのは、相変わらず自分が避けられているということだ。
 一応、曲がりなりにも同僚であるはずの使用人達は、私に一切近づいてこない。私が近づくと、早足で逃げていくくらいだ。
 それには多少傷つくが、仕方ないことだとも認識している。誰しも面倒なことには、巻き込まれたくないだろうし。

「愚図ね……私が命令する前に、行動するのが使用人というものでないのかしら?」
「お嬢様、も、申し訳ありません……」
「謝ったら許されるなんて、思っていないでしょうね? 父に好かれているからといって、調子に乗らないで頂戴。あなたのような平民の下賤な使用人を、私は使ってやっているのよ?」

 色々と考えながら歩いていた私は、聞こえてきた声に足を止めることになった。
 声の方向を見てみると、そこには令嬢らしき女性と使用人らしき女性がいる。

 二人の姿は、見たことがない。恐らく客人であるだろう。令嬢が招かれて、それに使用人の女性が付き添ってきたといった所か。
 しかし二人の雰囲気は、なんとも険悪なものだ。私程ではないが、周囲から避けられている。

「……」

 当然私も、あまり関わりたいとは思わなかった。
 自分には関係がないことだ。そういった考えが、頭の中には響いてくる。

 しかし私は、思い出していた。セディルスさんのことを。
 彼は私が同じような状況だった時に、助けてくれた。レシリア様やバルキス様のような高圧的な態度の相手にも、彼は怯まず盾となってくれた。

 それは勇気がいることだっただろう。特別な後ろ盾があるからといって、そう簡単にできることではない。
 しかし特別な後ろ盾があるからこそ、できることでもある。今彼女を助けられるのが私だけだというなら、私が勇気を出すしかないということだろう。

「あなたには罰が必要ね。主人として躾けてあげないと……」
「お待ちください」
「……は?」

 大きく手を振り上げた令嬢らしき女性は、私の方をゆっくりと見てきた。
 彼女の表情は、不快そうに歪んでいる。それだけ使用人をいたぶるのを楽しんでいた、ということだろうか。

 その表情で、彼女がレシリア様と同じような人間であることがわかった。
 アゼルトお兄様も嘆いていた。他者――特に平民を見下して、何をしても良いと思っている貴族が少なからずいると。

 そういった者達は声をあげることもできず、また周囲も手を差し伸べないようだ。それこそ、面倒なことに巻き込まれたくないから。
 それによって、社交界には慢性的にその意識が蔓延しているのかもしれない。レシリア様やバルキス様のことがあってもこれなのだから、忌々しい限りだが、それはきっと根強いものなのだろう。
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