まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗

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「……何故かをお聞きしても、よろしいのでしょうか?」

 数秒の沈黙の後、エンディ殿下は真剣な表情で口を開いた。
 やはり彼からは、動揺などは感じられない。内心はどうあれ、少なくとも表向きには平静に見える。
 そういった一面があるから、彼はアゼルトお兄様やイルガン殿下――もしかしたらウルティナ姫からも、次期国王に相応しいと思われているということだろうか。

「お前には王の素質がある。兄弟の中でも最も優しく強いお前のことを、俺達は高く評価しているということだ」
「僕がお兄様やお姉様よりも評価されるような人間ではありません。仮にそうだったとしても、それはまだ僕が子供だからなのではないでしょうか」
「お前の欠点は、自己評価が低い所だな。しかし、お前を王位に据えたいのには、他にも色々と理由がある。都合が良いのだ」
「都合が良い、ですか?」

 アゼルトお兄様の言葉に、エンディ殿下は少し目を丸めていた。
 その言葉が彼にとっては、予想外だったということだろうか。先程に比べて、動揺しているのが見て取れる。

「王というものは、絶大な権力を持つ反面、動きやすいとは言い難い立場だ。その判断による影響力が大きいが故に、留意しなければならないことが多くなる」
「それは心得ています」
「俺やイルガン、ウルティナもそうだが、俺達は立場に縛られるよりも自由に動ける方が良い気質だ。俺達にはお前に向いていないことができる。つまり三人がお前を支えるという形が、王国を最も堅実にできるものなのだ」
「……」

 アゼルトお兄様は、暗に自分達が汚い手も厭わない人間であると口にしていた。
 実際の所、それは事実であるだろう。レシリア様の時には、私に対する行いを交渉材料にランカール侯爵家を従えていた訳だし。

 つまりアゼルトお兄様にとっては、エンディ殿下が次期国王となることで、適材適所となるということなのだろう。その認識は、少なくともイルガン殿下も同じであるようだ。 

「……わかりました。そういうことなら、僕はそれでも構いません」
「エンディ……」
「僕だって王家の一員です。この国をより良い国にするために、この身を捧げる覚悟はできています。アゼルトお兄様やイルガンお兄様が、僕が次期国王になるのが良いと判断したならば、それに従います」

 エンディ殿下の言葉は、とても力強いものだった。やはり彼からは、王家としての誇りのようなものが感じられる。
 それを見て、私の気も少し引き締まった。曲がりなりにも王家の血を引く者の一人として、改めて頑張っていくとしよう。
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