お飾りの聖女様は裏で私達が必死にフォローしていたなんて、まったく気付いていなかったのでしょうね?

木山楽斗

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21.哀れな聖女

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 王城の地下に牢屋があるということは知っていた。
 その地下牢は、ほとんど利用されることがない場所だ。私もここに来るのは、初めてである。

「……こちらです」

 私とクラウス様は、ブライト様の案内でひときわ大きな牢屋の前に来ていた。
 その中には、見覚えがある女性がいる。人々の希望である聖女ファルティア様が、その中で不貞腐れているのだ。

「……お兄様、ですか?」
「ファルティア、お前に来客だ」
「まったく忌々しい限りです。どうして私がこんな所で……」

 ブライト様の呼びかけに、牢屋の奥からファルティア様がやって来た。
 彼女は、私を見て目を丸めている。まさか面会に来たのが私だとは思っていなかったのだろう。その表情からは、驚きがよく伝わってくる。

「アメリア……どうして、あなたがここに?」
「父上が呼んだのだ。彼女は、お前の一番の被害者だからな」
「被害者? 笑わせないでください。私が何をしたというのです」

 ブライト様の言葉に、ファルティア様はイラついていた。
 どうやら、反省の気持ちはまったくないようである。
 かつては素直だったらしいが、今の彼女には邪悪そのものだ。自らを省みることすら、できていないらしい。

「ファルティア、まだわからないのか? お前は、アメリアさんにひどいことをしたんだ。それくらいいい加減理解しろ」
「私の道具の分際で増長していったこの女が悪いのではありませんか!」
「お前は自分を必死に支えてくれていた人達に対して……聖女を作り上げることが、どれだけ大変なことであるか、わからないのか!」
「それがこの者達の仕事ではありませんか! そんなことで、私をこんな所に閉じ込めておくなんて、意味がわかりません!」

 ファルティアはかなり怒っているようだった。
 その主張は、とても自分勝手でわがままだ。元からそういう人だということは知っていたが、改めて見てみると、非常にみっともないものだ。

「ファルティア様……」
「……なんですか? その目は……まさか、私を哀れんでいるのですか?」
「……」
「あなたなんかに、あなたなんかに哀れまれるなんて屈辱です! その目をやめなさい! この忌々しい悪女が!」

 そこでファルティア様は、私の視線に対してさらに激昂していた。
 私から哀れみの目を向けられること、それが彼女にとって、それだけ屈辱であるということなのだろう。
 しかし、私はそういう目をせざるを得ない。今の聖女ファルティアは、それ程にみっともなくて仕方ない姿であるからだ。
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