熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗

文字の大きさ
1 / 16

しおりを挟む
 貴族として生まれたからには、婚約者は自分では選べない。親が決めた人と婚約することになるからだ。
 家の利益のために婚約させられる。それが、貴族として生まれた者の定めなのだ。

 それに、反発しようとする者もいるだろう。自分が決めた人と婚約したい。そういう気持ちを持つ人もいるはずである。
 その気持ちが、わからない訳ではない。だが、それは正しくないと私ははっきりと断言できるだろう。

 私という人間は、そういう人間なのだ。
 人によっては、冷たい人間だと思われるかもしれない。だが、そのように考えられるのが私なのである。

 だから、私は婚約者に対して不満を述べたことはない。
 別に仲が良い訳ではないが、特に反発することもなかったはずである。

「ブレギム様……」
「イルーア……」

 それなのに、私の婚約者であるブレギム・ゼパルド様は浮気をしていた。
 それも、私の妹のイルーアとである。
 屋敷の裏で抱き合う彼等を見つけた時には目を疑った。だが、残念ながら、これは現実であるようだ。

 流石の私も、これには怒りを覚えずにはいられなかった。
 今までも不満はあったが、まともな人だと思っていた。だが、彼はどうしようもない人間であったようだ。

 しかし、私はそれでも彼との婚約については維持しておくべきだと思っていた。
 例え、浮気していたとしても、彼との婚約はラルファン家に利益をもたらす婚約である。私が、わざわざそれを破棄する理由はないのだ。

「……君か」
「お、お姉様……?」
「……」

 だが、間が悪いことに私は彼に見つかってしまった。 
 見なかったことにしたかったのだが、これでは彼と議論するしかなくなってしまう。

 それにしても、彼は何を考えているのだろうか。
 浮気現場を見られたというのに、まったく驚いていない。その態度も、私の神経を逆なでしてくるものだ。

「いい機会だ。君に、言いたいことがある」
「言いたいこと? なんでしょうか?」
「君との婚約を破棄したい。僕は、君のようなつまらない人間と結婚することに耐えられそうにない」
「……」

 ブレギム様がかけてきたのは、ひどい言葉だった。
 しかし、その言葉には納得できる部分もある。確かに、私はつまらない人間だと思うからだ。
 だが、それで婚約を破棄することが許されるということではない。彼が述べていることは、とても身勝手なことだ。

「正気ですか?」
「僕は、熱烈な恋がしたい。彼女となら、それが実現するのさ」
「ブレギム様……」

 ブレギム様は、非常に個人的な感情で婚約を破棄してきた。
 その身勝手さに、私はとても怒っていた。いつもなら、その怒りは抑え込めるはずだ。
 しかし、私はその怒りを何故か抑えられなかった。感情に任せてはいけない。そう思いながら、私の口は勝手に開いていく。

「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
「うっ……」

 私は、今まで出したことがないような声で怒っていた。
 今まで我慢してきたものが、一気に溢れ出してきたのかもしれない。
 言葉を出してからすぐに、私は恥ずかしくなっていた。こんな男に対して、声を荒げる必要などなかった。感情を動かすだけ無駄なのだから、黙って去ればよかったのだ。

 そう思って、私は二人に背を向ける。
 これ以上、彼等と話していても時間の無駄である。
 起こってしまったことは、仕方がないことだ。私が今やるべきは、今後どうするかを決めることである。
 
 という訳で、私はお父様の元に向かうことにした。
 今後のことを決めるにあたって、両親の意見は絶対に必要だからだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした

松ノ木るな
恋愛
 アリンガム侯爵家夫人ルシールは離婚手続きが進むさなかの夜、これから世話になる留学先の知人に手紙をしたためていた。  もう書き終えるかという頃、扉をノックする音が聞こえる。その訪ね人は、薄暗い取引で長年侯爵家に出入りしていた、美しい男性であった。

母と約束したことの意味を考えさせられる日が来ることも、妹に利用されて婚約者を奪われるほど嫌われていたことも、私はわかっていなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ミュリエル・ゼノスは妹のことを溺愛していたが、母と伯父譲りの珍しい色合いを持って生まれたことと母の遺言のような言葉によって、いざとなったら守ろうとしていた。 だが、そんな妹に婚約者を奪われることになり、それだけでなく出生の秘密を知ることになったミュリエルが一番心を痛めることになるとは思いもしなかった。

双子の妹は私から全てを奪う予定でいたらしい

佐倉ミズキ
恋愛
双子の妹リリアナは小さい頃から私のものを奪っていった。 お人形に靴、ドレスにアクセサリー、そして婚約者の侯爵家のエリオットまで…。 しかし、私がやっと結婚を決めたとき、リリアナは激怒した。 「どういうことなのこれは!」 そう、私の新しい婚約者は……。

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~

ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された 「理由はどういったことなのでしょうか?」 「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」 悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。 腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

王子に買われた妹と隣国に売られた私

京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。 サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。 リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。 それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。 サリウスは王様に向かい上奏する。 「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」 リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

ぱんだ
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

処理中です...