熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗

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 私はウルグスとともに、ゼラーム様と対面していた。
 どうやら、彼は私と婚約したいらしい。言葉だけ聞けば、告白のようにも聞こえるが、事情はもっと複雑だろう。

「それは一体、どういうことですか?」
「……ああ、俺達シャスキン家は、ラルファン家との婚約を諦めていないんだ。家の利益のために、それが必要らしい」
「なるほど……」
「そこで、自由になっているあんたと俺で婚約できないかと考えた訳だ。だから、俺があんたにこの話を持ち掛けているのさ」
「そういうことでしたか……」

 ゼラーム様の説明で、大体の事情はわかった。
 婚約というものは、一大事だ。それによる利益も、絶大である。
 それが突然なくなるというのは、かなりの痛手だろう。なんとかして取り戻したいと考えることは、おかしいことではない。
 しかし、まだ疑問はある。そういう話であるなら、やはりお父様辺りに通すべきだ。

「そういう話なら、お父様にした方がいいのではないでしょうか?」
「いや、それが事情は少々複雑でね。俺の父は、家として話を通したくないらしい」
「え? どういうことですか?」
「あまり言いたくはないが、あんたは婚約破棄されている。そういう人間の扱いは、中々複雑だ。そして、父はそういう人間を受け入れたという実績を作りたくないらしい。これからのことを考えて、あくまでも個人間のやり取りにしたいらしい」
「ああ、わからない訳ではありません」

 ゼラーム様が私に話しに来たのは、シャスキン家の体裁を保つためだった。
 私は、一度婚約破棄された人間である。そういう人間は、あまりいい人間ではないという印象を受けやすい。
 そんな人間と婚約したいと家を通して言うと、悪評が広まる可能性がある。それを危惧して、彼が個人として来たのだ。

「つまり、あなたは私のことを好きだから、婚約したいということになっているということですね?」
「ああ、そういうことになる。ほとんど話したこともないから、一目惚れということになるんだろうな……」

 ゼラーム様は、苦笑いしていた。
 もちろん、彼は私のことを好きとは思っていない。家のために、そういう気持ちということになっているのだ。
 どこの家も、体裁を気にしてばかりだ。私達貴族の子供は、それに振り回される定めなのである。

「大体の事情はわかりました。ただ、その話をされても、私一人では決められません」
「ああ、わかっている。家で相談して決めてくれ。もうこれで体裁は保てるだろうし、後は任せればいいだろう」
「ええ、そうですね……」

 今日の会合で、シャスキン家の体裁は保たれた。
 これで、後はお父様達に任せられるのだ。私達のやることは、大体終わったのである。
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