私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗

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10.社交辞令ではなく

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「まさか、こんなに早く案内することになるとは思っていませんでした」
「……もしかして、社交辞令でしたか?」
「ああいえ、そういう訳ではありません。というかむしろ、アルティア嬢の返答の方が社交辞令かと思っていたくらいです」

 私の隣にいるフレイル様は、少し遠慮がちに言葉を発していた。
 確かに言われてみれば、昨日のあのやり取りというものは社交辞令染みたものだったような気がする。通常なら、言った方も言われた方も本気にはしないだろう。
 そういった貴族の腹芸というものが、私の頭の中からは抜けていた。どうやら本当に、気が抜けていたようだ。

「まあ、確かに昨日の今日で頼むなんて思いませんか……でも、早い方が良いと思ったんです」
「何か理由があるということでしょうか?」
「その、母のことで……」
「ああ……」

 私の言葉に、フレイル様は目を見開いていた。どうやら短い言葉で、私の意図を理解してくれたようだ。

「この辺りは空気も澄んでいますからね。療養ということなら、良いかもしれません」
「確かに、空気がおいしい気はしますね」
「そうでしょう。自慢の領地なんです」

 フレイル様は、胸を張っていた。そこからは、バルフェルト伯爵家の一員としての誇りというものが伝わって来る。
 自らの領地に対して、そうやって胸を張れることは良いことだといえるだろう。少なくとも、私は好感が持てる。
 お祖父様からも、誇りについては何度も聞かされてきた。それは貴族として、いやそれ所か人間として大切なことだと私は思っている。芯を通せる人というのは、素敵なものだ。

「フレイル様は、何れバルフェルト伯爵家を継ぐことになるのですよね?」
「順当に行けば、そうなると思います。といっても、まだお祖父様が健在ですからね。父上が伯爵を継いで、その父上が退くまでですから、道のりは長いと言えます」
「フレイル様なら、立派な伯爵になられるのでしょうね」
「そう言っていただけるのは光栄ですが、どうなのでしょうかね? 正直、そこまで自信はありません。お祖父様も父上も、立派な人達ですからね」
「大丈夫ですよ、フレイル様なら」

 フレイル様は、とても澄んだ目をしていた。彼の将来というものは、明るいものだろう。その目を見ていると、自然とそのように思えた。
 私は、濁った目をしている人達のことをよく知っている。だからこそ、そう思うのだろうか。
 お父様やイルミナ、ホラリーナ様達とバルフェルト伯爵家の人達は正反対である。お母様は色々と苦しい日々を送っていたが、それに関しては良き縁に恵まれたといえるだろう。
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