不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗

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82.彼からの告白

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「……」
「……」

 私とマグナード様は、二人きりの客室で黙っていた。
 どうしてなのだろうか。いつもなら何かしら話すことがあるはずなのに。

 もしかして、私達は事件のことくらいしか話していなかったのだろうか。
 そう思ってしまうくらいに、私達は静かになっていた。

 ちなみに、私が黙っている理由は、マグナード様のことを強く意識しているからだ。
 もしかして、彼も同じなのだろうか。もしもそうだとしたら、少し嬉しい。いや、かなり嬉しいかもしれない。

「……本当は、別荘に招いた時に言いたいことがあったんです」
「え?」

 そこでマグナード様は、どこか自虐的な笑みを浮かべながら、話をし始めた。彼の顔は、少し強張っているような気がする。

「いや、本当はもっと前から言いたかったような気もしますね」
「マグナード様……」
「僕は臆病でしたから、結局言い出せずにいました。ですが、もう覚悟を決めることにします」

 マグナード様は、真剣な顔をしていた。
 その表情に、私は言葉を飲み込んだ。今は彼の言葉を待つべきだと、そう思ったのである。

「イルリア嬢、僕はあなたのことが好きです。あなたのことを愛している」

 そしてマグナード様は、私が思っていた通りの言葉を口にしてくれた。
 その言葉に、私は固まっていた。なぜならそれは、仮にそうだったとしても、聞けない言葉であると思っていたからだ。

「マグナード様……私も、気持ちは同じです。私も、マグナード様のことが好きです」
「イルリア嬢……そう思っていただけているなら、とても嬉しいです」
「しかし、マグナード様は公爵家のご令息です。子爵家の令嬢である私とは、釣り合いが取れません。同じ貴族であっても、差があります」

 私とマグナード様は、貴族であっても地位が異なる。その差というものは、大きなものだと思うのだ。
 もちろん、結ばれる手段が結婚だけという訳ではないのだが、それは不誠実極まりないものである。
 そういった関係を、マグナード様は好まない。だからこそ、仮に好かれているとしても、告白なんてあり得ないと思っていたのだが。

「……父上には話を通してあります。あなたと結ばれることに、特に反対はしていません」
「え?」
「僕は公爵家を継ぐ立場ではありませんからね。兄上と比べれば、自由にしていいと思っているのでしょう。縁談なども考えていたようですが、良い人を見つけたらそれでいいと言われています。最低限、貴族であることは求められましたが」

 マグナード様の言葉に、私は目を丸くすることになった。
 つまり私は、余計な心配をしていた、ということだろうか。彼と結ばれることにおいて、地位の差というものは、問題なかったようだ。

「そうなのですか? それなら……」
「ええ、ですが、何も問題ないという訳でもないのです」
「え?」
「父上は納得してくれました。しかし、兄上が納得していません。ビルドリム公爵家の次期当主として、兄上はあなたのことを見極めたいと言っています。ですからイルリア嬢には、兄上に会っていただきたいのです」

 少し申し訳なさそうにしながら、マグナード様はそう切り出してきた。
 現在の家長は納得しているが、次期当主が納得していない。その状況は、中々に微妙なものであるといえる。
 しかしながら、そういうことなら特に迷う必要があるという訳でもない。私の道は、定まった。

「わかりました。それなら私が、ビルドリム公爵家に行きます。私は、マグナード様と結ばれたいですから」
「ありがとうございます、イルリア嬢。その言葉が、僕には何よりも嬉しいものです」

 私は、マグナード様の言葉に力強く頷いた。
 こうして、私達のこれからの方針が決まったのである。
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