派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗

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26.彼の事情は

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「隣、いいかしら?」
「何? 僕に、何か用なの?」
「まあ、そんな所かしらね」

 私は、キャロムの隣に座った。彼と話すには、そうする方がいいと思ったのだ。
 私が隣に座っても、キャロムは何も言わない。それを、私は肯定と判断することにした。
 やはり、彼は寂しがり屋なのだろう。だから、誰かに傍にいてもらいたい。そういうことなのではないだろうか。
 さて、ここからどうするかが問題である。まず、何から話すべきだろうか。

「……メルティナに負けたのが、そんなに悔しかったの?」
「なっ……!」

 少し考えたが、私は直球で質問することにした。回りくどい聞き方をしても、結局それを聞かなければ、この問題は解決しないと思ったからだ。
 流石に、キャロムも驚いている。まさか、最初からそれを聞かれるとは思っていなかったのだろう。

「べ、別にそういう訳では……」
「それなら、どうしてここにいるのかしら?」
「それは……」

 私の質問に、キャロムは言葉を詰まらせた。流石に、すぐに上手い嘘をつくことはできなかったようだ。

「……あなたにはわからないんだ。僕の苦しみが……」
「ええ、わからないわ。だって、私はあなたが何を考えているのかなんて、知らないもの」
「な、なんだって?」
「当り前のことでしょう? 知らないのだから、わかる訳はない。もしわかって欲しいとあなたが思っているなら、教えてもらえないかしら?」
「それは……そうかもしれないけど……」

 私の言葉に、キャロムは下を向いた。恐らく、考えているのだろう。自分の事情を話すべきかどうかを。
 私と彼は、親しい関係という訳ではない。そんな私に、彼が事情を話してくれるのかどうかは、少し怪しい所だ。
 ただ、私はなんとなく話してくれる気がした。彼と実際に話してみてわかったのだ。彼はきっと、誰かに自分を理解してもらいと思っているのだと。
 そうでなければ、もっと私を突っぱねただろう。こんな風に隣に座らせて対話する時点で、彼は他人に自分の思いを理解して欲しいと思っているはずだ。

「……僕は、一番でなければならないんだ」

 キャロムは、ゆっくりとそう呟いた。どうやら、私に対して自分の事情を話す気になってくれたようだ。

「一番でなければならない? それは、どういうことなの?」
「僕は、生まれた時から魔力が高かった……それで、周りの人にも期待されていたんだ。母さんとか、父さんとか……そういう人達は、皆、僕が立派になると、そう信じて疑わなかった……」
「期待……されていたのね?」
「ああ、そうさ……その期待があったからなのか、僕は家の手伝いも任されず、部屋で勉強させられた。勉強以外のことは……許されなかった」
「許されなかった……そんな馬鹿な……」

 キャロムの言葉に、私は驚いた。勉強以外のことを許さない。その強い言葉で、彼がどのような環境で生きてきたのか、伝わってきたからだ。
 恐らく、彼はとても窮屈な生活を送っていたのだろう。部屋に閉じ込められて、勉強させられる。それ以外のことは許されず、ただひたすらに勉強。想像しただけで、息が詰まる。そんな生活を強要させられるなんて、なんと苦しいものなのだろうか。
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