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27.凡人からすると
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「成果が出せなかったら、怒られたんだ。どうして、できないんだって……だから、僕は成果を出した。誰よりも優秀でなければ、僕は駄目なんだ。だって、そうでなければ、僕は認められないんだから……」
「認められない……か」
キャロムは、かなり思い詰めたような顔をしている。それは恐らく、成果が出せなくなって、両親に認められないという恐怖からのものなのだろう。
彼の根底には、それがある。両親に認められなければならない。その強迫観念のようなものこそが、彼の今までの行動の裏にあったものなのだ。
メルティナが自分より上だと認めれば、自分が認められなくなる。それは、彼にとって絶対に避けたいことなのだろう。
「なるほど……あなたが、どうしてメルティナに負けたくなかったのか、それは理解できたわ」
「そう……それで、あなたはどう思ったのかな?」
「それは……」
キャロムに聞かれて、私は少し考える。彼の根底にある感情は、両親に対するものだ。それをどうにかするには、とても難しいものだろう。
私の考えを伝えることはできる。だが、それで彼の中にあるわだかまりを取り除くことができるのだろうか。
結局の所、それは両親との問題だ。私が何か言っても、無駄な可能性はある。
しかし、それでも話さなければ、何も進まない。ここは、思い切って、私の考えを話してみるべきだろう。
「二人とも、こんな所で何をしているんだ?」
「え?」
「え?」
私が言葉を口にする前に、一人の男性の声が辺りに響いた。声の方向に、私達はその方向を向く。すると、そこには私の隣の席のドルキンスがいた。
初めは驚いた私だったが、すぐに理解できた。恐らく、窓から私達が見えて、様子を見に来たのだろう。
私が隣に座っていることもあって、ここに人がいるということは、先程よりもわかりやすくなっているはずだ。普通に話しているため、そこまでおかしいとは思われないだろうが、知人がいたら様子を見に来るというのは至極普通の行動だろう。
「おっと、もしかして邪魔をしてしまったのか? 二人で蜜月を過ごしていたのだとしたら、俺はお邪魔虫だったな……」
「蜜月? 違う違う」
「少し話をしていたのです」
「うん? そうなのか。しかし、なんでこんな所で……」
私達の言葉に、ドルキンスは少し考えるような表情をした。この状況がどういうものなのか、なんとなく察したようである。
「なるほど……キャロム君は、メルティナさんに負けたことに、まだ落ち込んでいたんだな……」
「え、えっと……」
「ふむ……まあ、あんな負け方をすれば、落ち込むのは普通のことだ。だが、あまり落ちんでもいいことなんてないぞ。人間、失敗や敗北なんてものはつきものだ。すぐにとはいわないが、早い所切り替える方が楽なものだぞ?」
ドルキンスは、キャロムに対して一気にまくし立てた。すらすらと出てくるその言葉に、私は素直にすごいと思っていた。
彼の言葉には、棘や嫌味というものがない。とても真っ直ぐなその言葉は、爽やかな印象さえ与えてくる。
「そもそも、俺からすれば、キャロム君が何に悩んでいるかわからんな……君は、優れた魔力を持っている。それなのに、どうして悩む必要があるんだ? なんというか、少し贅沢なような気がしてしまうな……」
「贅沢……?」
「だって、そうだろう。他のほとんどの人より優秀であるというのに、上にいる一人を見て思い悩むなんて……俺からすれば、贅沢な悩みさ。俺の魔力は五十三。俺なんか、どれだけ上がいることか……」
「そ、それは……」
ドルキンスは、少し落ち込んでいた。それは、自分の魔力が平均よりも低いことを悲しんでいるのだろう。
その様子を見て、キャロムは言葉に詰まっている。流石に、このドルキンスに返す言葉はなかったということだろうか。
「兄上にはいつも怒鳴られるし、父上や母上も俺のことなんか既に見放しているようなものだ。俺ももっと優秀だったら、そう思うことが、何度あったことか……」
「そ、そうなのかい?」
「ああ、俺からすれば、キャロム君が羨ましくて仕方ない。それだけの魔力があれば、俺も……おっと、すまないな。俺のことなんて、どうでもいいことだ」
ドルキンスは、キャロムが困惑していることに気づいたからか、先程までの雰囲気を一変させて笑顔を見せた。そういう風に、すぐに切り替えられるのも、彼のすごい所だと思う。
「認められない……か」
キャロムは、かなり思い詰めたような顔をしている。それは恐らく、成果が出せなくなって、両親に認められないという恐怖からのものなのだろう。
彼の根底には、それがある。両親に認められなければならない。その強迫観念のようなものこそが、彼の今までの行動の裏にあったものなのだ。
メルティナが自分より上だと認めれば、自分が認められなくなる。それは、彼にとって絶対に避けたいことなのだろう。
「なるほど……あなたが、どうしてメルティナに負けたくなかったのか、それは理解できたわ」
「そう……それで、あなたはどう思ったのかな?」
「それは……」
キャロムに聞かれて、私は少し考える。彼の根底にある感情は、両親に対するものだ。それをどうにかするには、とても難しいものだろう。
私の考えを伝えることはできる。だが、それで彼の中にあるわだかまりを取り除くことができるのだろうか。
結局の所、それは両親との問題だ。私が何か言っても、無駄な可能性はある。
しかし、それでも話さなければ、何も進まない。ここは、思い切って、私の考えを話してみるべきだろう。
「二人とも、こんな所で何をしているんだ?」
「え?」
「え?」
私が言葉を口にする前に、一人の男性の声が辺りに響いた。声の方向に、私達はその方向を向く。すると、そこには私の隣の席のドルキンスがいた。
初めは驚いた私だったが、すぐに理解できた。恐らく、窓から私達が見えて、様子を見に来たのだろう。
私が隣に座っていることもあって、ここに人がいるということは、先程よりもわかりやすくなっているはずだ。普通に話しているため、そこまでおかしいとは思われないだろうが、知人がいたら様子を見に来るというのは至極普通の行動だろう。
「おっと、もしかして邪魔をしてしまったのか? 二人で蜜月を過ごしていたのだとしたら、俺はお邪魔虫だったな……」
「蜜月? 違う違う」
「少し話をしていたのです」
「うん? そうなのか。しかし、なんでこんな所で……」
私達の言葉に、ドルキンスは少し考えるような表情をした。この状況がどういうものなのか、なんとなく察したようである。
「なるほど……キャロム君は、メルティナさんに負けたことに、まだ落ち込んでいたんだな……」
「え、えっと……」
「ふむ……まあ、あんな負け方をすれば、落ち込むのは普通のことだ。だが、あまり落ちんでもいいことなんてないぞ。人間、失敗や敗北なんてものはつきものだ。すぐにとはいわないが、早い所切り替える方が楽なものだぞ?」
ドルキンスは、キャロムに対して一気にまくし立てた。すらすらと出てくるその言葉に、私は素直にすごいと思っていた。
彼の言葉には、棘や嫌味というものがない。とても真っ直ぐなその言葉は、爽やかな印象さえ与えてくる。
「そもそも、俺からすれば、キャロム君が何に悩んでいるかわからんな……君は、優れた魔力を持っている。それなのに、どうして悩む必要があるんだ? なんというか、少し贅沢なような気がしてしまうな……」
「贅沢……?」
「だって、そうだろう。他のほとんどの人より優秀であるというのに、上にいる一人を見て思い悩むなんて……俺からすれば、贅沢な悩みさ。俺の魔力は五十三。俺なんか、どれだけ上がいることか……」
「そ、それは……」
ドルキンスは、少し落ち込んでいた。それは、自分の魔力が平均よりも低いことを悲しんでいるのだろう。
その様子を見て、キャロムは言葉に詰まっている。流石に、このドルキンスに返す言葉はなかったということだろうか。
「兄上にはいつも怒鳴られるし、父上や母上も俺のことなんか既に見放しているようなものだ。俺ももっと優秀だったら、そう思うことが、何度あったことか……」
「そ、そうなのかい?」
「ああ、俺からすれば、キャロム君が羨ましくて仕方ない。それだけの魔力があれば、俺も……おっと、すまないな。俺のことなんて、どうでもいいことだ」
ドルキンスは、キャロムが困惑していることに気づいたからか、先程までの雰囲気を一変させて笑顔を見せた。そういう風に、すぐに切り替えられるのも、彼のすごい所だと思う。
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