派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗

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79.同じ道を歩んだ者として

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 私は、真っ白な空間にいた。
 目の前には、赤い髪をした女性がいる。その姿は、正しくアルフィアだ。
 鏡を見ているのか、一瞬そう錯覚したが、そうではないことはすぐに理解できた。目の前のアルフィアが、困惑しているからだ。

「ここは一体……? あなたは……誰?」
「……アルフィア、あなたに少しだけ言っておくことがあるの」
「え?」

 アルフィアに事情を説明しようかとも思ったが、それは彼女が目覚めてから皆が
伝えてくれるだろう。
 だから、私は自分の思いを伝えておくことにした。それが、何よりも大事なことだと思ったからだ。

「あなたは、その赤髪を誇りに思っていた。でも、本当は違うんだよね。その赤い髪で辛い思いをしてきたから……否定され続けていたから、敢えてそれを誇りと呼んだ。特別な証だとそう思い込んだ……そうでしょう?」
「な、何よ。急に現れて、わかったような口を聞いて……あなたに、私の何がわかるっていうの?」
「……わかるよ。私は、あなただったんだから」
「え?」

 私は、アルフィアのことを悪人だと思っていた。ゲームをプレイした後には、そのような感想しか抱かなかったのだ。
 だが、実際に彼女となったことで、その根底を少しだけ理解することができた。そのため、今は彼女と対等に話すことができると、そう思うのだ。

「あなたの気持ちは、わからない訳じゃない……でもね、あなたがどれだけ辛い思いをしていたとしても、それは他人を傷つけていい理由にはならないんだよ」
「……私に、説教しようというの?」
「説教か……そうじゃないんだけど、そう思うのかな?」
「な、なんなのよ、一体……」

 私の態度に、アルフィアは困惑していた。牙を向いても意に介さないので、混乱しているのだろう。
 正直言って、今の私にとって彼女のその態度は怖いものではない。この世界で様々な経験した今の私には、彼女の牙は大したものではないと思えるのだ。

「アルフィア、あなたはもう一度自分が何をしたのかをよく考えなければならないと思う。誰かが気に入らないから、嫌なことを言ったりしたりする。それをされてどんな気持ちになるのか、あなたはわかっているはずだよ?」
「……そ、それは……」
「そう……あなたは自分がされて嫌だったことを他人にしているだけ。それが愚かしいことであるということは、あなたにもわかるよね?」
「……」

 私の言葉に、アルフィアは驚いたような表情をしていた。彼女自身は、今までそんなことには気づいてはいなかったのだろう。
 自分自身の行いを見直すことは、とても難しい。そのため、彼女もそれに気づくことはできなかったのだろう。
 だが、だからといって、他人も指摘することはできなかったはずだ。高い地位を持つアルフィアに指摘することは勇気がいることだろうし、そもそも彼女のその事情を知っている人も少ないのだから。

「それを理解できたなら、きっと大丈夫……いっぱい謝って、いっぱい反省したら、皆もきっと許してくれる。皆、優しいから……」
「ま、待って……どこにいくの?」
「帰るの……私が在るべき場所へ」
「在るべき場所……?」

 私は、ゆっくりと彼女に背を向けた。
 これで、私ができることは終わりだ。後は、アルフィアと皆に任せることにしよう。
 困惑するアルフィアを置いて、私はゆっくりと歩き始める。自然とどこに行くかはわかった。きっと、この体の本能が、アルフィアという本来の魂を得たため、私を追い出そうとしているのだろう。

「これは……」

 歩き始めてすぐに、私はアルフィアの体から出ていた。ゆっくりと空へと昇っていく中で見えたのは、皆の姿だ。
 皆、私を見て驚いたような表情をしている。それはすぐに悲しそうな表情に変わった。
 皆は、何かを喋っているように思える。ただ、その声は聞こえない。

「これで、本当にお別れか……さようなら、皆……」

 私はそのまま、空へと昇っていく。アルフィアの中にいた時と同じように、どこに行くべきかはわかった。
 いや、わかったというよりは、自然な流れに任せるというべきだろうか。やはり、肉体を失った魂というものは、本来ならそこへ向かうのだろう。
 私は、再びゆっくりと目を瞑った。これで、私の物語は終わりだ。そう思いながら、私は天へと昇っていくのだった。



◇◇◇



「んっ……」

 混濁する意識の中で、私はゆっくりと目を覚ました。
 視線の先には、天井が見える。ここは一体どこだろうか。天国というにも地獄というにも微妙なその光景に、私はそんな疑問を抱いていた。

「うっ……」

 次に気づいたのは、自分の体が自由に動かないということだった。
 体全体が重くて、鉛のようだ。というか、痛みもある。とても動かせそうにない。

「う、そっ……」
「え?」

 直後に聞こえてきたのは、何かが割れるような音だった。それと同時に聞こえてきた声は、どこか懐かしい声だった。
 私は、ゆっくりと音が聞こえてきた方向を向こうとする。重い体はほとんど動いてくれないが、なんとか何があったかだけは確認できた。

「……お、お姉、ちゃん……?」
「静香……起きたの? 起きたのね!」

 目元に涙を浮かべながらも、嬉しそうに笑う姉の姿に、私は自分がどこに来たのかを理解するのだった。
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