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80.戻って来たもの
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私は、町を見渡せる丘に来ていた。
私は、元にいた世界に戻って来た。あの『Magical stories』の世界から、日本という国へと帰って来たのだ。
「どういうことなんだろう……?」
姉曰く、私は交通事故で重体になり、数日間目を覚まさなかったらしい。お医者さんから、二度と目覚めない可能性もあるといわれて、姉はとても心配してくれていたようである。
結果的に、私は早くに目覚めることができたようだ。本当によかったと私に涙ながらに語ってくれた姉の姿は、今でも鮮明に思い出せる。
リハビリは大変だったが、姉の支えもあって、今はこうやって元の生活に戻れている。それは、喜ばしいことだ。だが、私の心には少しだけ気になっていることが残っている。
「あれは、夢だったんだろうか……」
思い出すのは、あの『Magical stories』の世界であった出来事のことだ。
あれは、全て夢だったのだろうか。交通事故にあった私が憧れた世界に転生するという夢だった。そういうことなのだろうか。
「私には、その記憶がはっきりと残っている……でも、魔法が使える訳でもないし……私があの世界にいたという証明なんて、何も残っていない……」
私の記憶以外に、私があの世界にいたということを証明するものは何も残っていない。
そのため、私は自身が持てなくなっていた。あの世界が本当にあって、そこに自分がいたのかどうかということに。
「あれは全部、私の作り話……そういうことだったの?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「……え?」
ゆっくりと呟いた私の言葉に、返答があった。
その声に、私は困惑する。それは、聞き覚えのあるその声が、聞こえてくるはずがない人物のものだったからだ。
「……バルクド様?」
「お久し振りですね、アルフィアさん……おっと、あなたはアルフィアさんではないのでしたね……」
振り返った先にいたのは、バルクド様だった。こちらの世界に、『Magical stories』のバルクド様がいたのである。
そして、私はさらに驚くことになった。なぜなら、その場にいたのはバルクド様だけではなかったからだ。
「アルフィアではないか……なんというか、ややこしいものだな」
「リオーブ様、ややこしいとはいっても、アルフィア様は本来、こちらの世界の人なのですから……」
「おお、こっちの世界でのアルフィア嬢も、変わらず麗しいな。そう思わないか、キャロム君?」
「え? いや、まあ、そうかもしれないけど……よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるね?」
「……昔から、こいつはそういう奴だ」
私の目の前には、皆がいた。『Magical stories』の世界で出会った人達が、私の目の前にそのまま現れたのである。
「どうして、皆がここに……?」
「私とキャロムさんで魔法を開発したのです。次元を超える魔法を……」
「次元を超える魔法? そんなものが……あ、でも、どうして私がここにいるとわかったの? 例え次元を超える魔法があったとしても、私が私であるということや、ここにいることはわからないんじゃない?」
「私の中に、あなたの魔力が残っていましたから……」
「私の魔力……あっ」
メルティナの言葉に、私は思い出した。
シャザームを倒す時、私は自身の魔力をメルティナに託した。その魔力を頼って、皆はここまで来たようだ。
「まったく、いきなり現れて、いきなり消えて、あなたって、忙しい人よね?」
「あっ……」
そこで、私に穏やかな声で語りかけてくる者がいた。それは、アルフィアである。
その真っ赤な髪をなびかせながら、彼女はゆっくりと笑う。その笑顔は、とても穏やかなものである。
「まだお礼を言っていなかったわね……ありがとう、あなたのおかげで、私は少しだけ変わることができたわ」
「アルフィア……」
「それをあなたに伝えたかったの。私として過ごしたあなたに……」
アルフィアの言葉に、私は笑顔になった。彼女として過ごした私にとって、その憑き物が落ちたような彼女の穏やかさは、とても喜ばしいものだったからだ。
もしかしたら、私はその姿を見るために、あちらの世界に迷い込んだのではないか。私は、そんな感想を抱くのだった。
私は、元にいた世界に戻って来た。あの『Magical stories』の世界から、日本という国へと帰って来たのだ。
「どういうことなんだろう……?」
姉曰く、私は交通事故で重体になり、数日間目を覚まさなかったらしい。お医者さんから、二度と目覚めない可能性もあるといわれて、姉はとても心配してくれていたようである。
結果的に、私は早くに目覚めることができたようだ。本当によかったと私に涙ながらに語ってくれた姉の姿は、今でも鮮明に思い出せる。
リハビリは大変だったが、姉の支えもあって、今はこうやって元の生活に戻れている。それは、喜ばしいことだ。だが、私の心には少しだけ気になっていることが残っている。
「あれは、夢だったんだろうか……」
思い出すのは、あの『Magical stories』の世界であった出来事のことだ。
あれは、全て夢だったのだろうか。交通事故にあった私が憧れた世界に転生するという夢だった。そういうことなのだろうか。
「私には、その記憶がはっきりと残っている……でも、魔法が使える訳でもないし……私があの世界にいたという証明なんて、何も残っていない……」
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そのため、私は自身が持てなくなっていた。あの世界が本当にあって、そこに自分がいたのかどうかということに。
「あれは全部、私の作り話……そういうことだったの?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「……え?」
ゆっくりと呟いた私の言葉に、返答があった。
その声に、私は困惑する。それは、聞き覚えのあるその声が、聞こえてくるはずがない人物のものだったからだ。
「……バルクド様?」
「お久し振りですね、アルフィアさん……おっと、あなたはアルフィアさんではないのでしたね……」
振り返った先にいたのは、バルクド様だった。こちらの世界に、『Magical stories』のバルクド様がいたのである。
そして、私はさらに驚くことになった。なぜなら、その場にいたのはバルクド様だけではなかったからだ。
「アルフィアではないか……なんというか、ややこしいものだな」
「リオーブ様、ややこしいとはいっても、アルフィア様は本来、こちらの世界の人なのですから……」
「おお、こっちの世界でのアルフィア嬢も、変わらず麗しいな。そう思わないか、キャロム君?」
「え? いや、まあ、そうかもしれないけど……よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるね?」
「……昔から、こいつはそういう奴だ」
私の目の前には、皆がいた。『Magical stories』の世界で出会った人達が、私の目の前にそのまま現れたのである。
「どうして、皆がここに……?」
「私とキャロムさんで魔法を開発したのです。次元を超える魔法を……」
「次元を超える魔法? そんなものが……あ、でも、どうして私がここにいるとわかったの? 例え次元を超える魔法があったとしても、私が私であるということや、ここにいることはわからないんじゃない?」
「私の中に、あなたの魔力が残っていましたから……」
「私の魔力……あっ」
メルティナの言葉に、私は思い出した。
シャザームを倒す時、私は自身の魔力をメルティナに託した。その魔力を頼って、皆はここまで来たようだ。
「まったく、いきなり現れて、いきなり消えて、あなたって、忙しい人よね?」
「あっ……」
そこで、私に穏やかな声で語りかけてくる者がいた。それは、アルフィアである。
その真っ赤な髪をなびかせながら、彼女はゆっくりと笑う。その笑顔は、とても穏やかなものである。
「まだお礼を言っていなかったわね……ありがとう、あなたのおかげで、私は少しだけ変わることができたわ」
「アルフィア……」
「それをあなたに伝えたかったの。私として過ごしたあなたに……」
アルフィアの言葉に、私は笑顔になった。彼女として過ごした私にとって、その憑き物が落ちたような彼女の穏やかさは、とても喜ばしいものだったからだ。
もしかしたら、私はその姿を見るために、あちらの世界に迷い込んだのではないか。私は、そんな感想を抱くのだった。
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