派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗

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84.資料の人物

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「……一体、この世界に何が起こっているの?」
「……シズカ様、暗黒の魔女が持っていた魂奪取魔法に関する資料を覚えていますか?」
「え? ああ、あの暗黒の魔女以外の人物が記したという資料のこと?」
「ええ、あの資料を書いたのが誰なのか、それが暗黒の魔女の真の目的を探る上で重要なことだったのです」

 メルティナの言っている資料については、よく覚えている。暗黒の魔女が魂奪取魔法の開発者ではないという事実は、とても印象に残っていたからだ。
 しかし、あの資料を書いた人物が重要とはどういうことだろうか。そこまで考えて、私はとあることを思いつく。

「……まさか、あの資料を書いた人物も、魂となってこの世界に残っているということ……?」
「流石ですね……恐らく、そうだと思います」
「でも、その人物と暗黒の魔女にどういう関わりが?」
「この本を見てください」

 そこで、私はメルティナから一冊の本を差し出された。それは、歴史上の偉人達に関する本である。
 その本には、しおりが挟んであった。私は、そのページを開いて、目を通していく。

「オルディネス……それが、魂奪取魔法を開発した人物だと私達は、予測しています」
「この人が……」

 そのページには、一人の男性の絵が載っていた。その名前は、オルディネス。今から遥か昔に活躍した魔術師の一人であるそうだ。
 そのページには、オルディネスが実際に残したとされている文書も記されていた。その筆跡は、確かにあの時見たものによく似ている。

「オルディネスは、かつて存在していたとある王国において活躍していたそうです。ただ、その国は他国からの侵攻を受けて滅びました。その際に、オルディネスも亡くなったとされています」
「しかし、その妻であったネルメアともども、二人が実際にどのようにして亡くなったのかは判明していないようなんだ。それで、僕達は考えた訳さ。もしかしたら、このネルメアというのが、シャザームの正体なんじゃないかってね」

 メルティナとキャロムの言葉に、私はその記述を見てみた。
 確かに、二人の言う通り、この夫婦が他国の侵攻で本当に亡くなったかどうかはわからないようである。
 そのため、暗黒の魔女の正体がネルメアという女性であったということも考えられない訳ではない。状況的には、それが濃そうとさえ思える。

「そして、シャザームの目的は、夫を復活させることなのではないかと思うのです。発見した未知の魂は、分割された状態でしたから……」
「夫の復活……」
「……ただ、もしそうだとしたら、かなり危険だと思いました。オルディネスという人物が、どういう人物か残っている記述を見ていると……」
「……そうみたいだね」

 オルディネスという人物は、非常に気性が荒い人物だったようだ。魔法を開発した偉大な人物であるが、その人格面は褒められたものではないらしい。
 そして、私は彼の開発した魔法にも注目した。どうやら、彼は空間に関する魔法を開発していたようである。
 その記述を見て、私は理解した。私が何故、こちらの世界に呼ばれたのかを。

「……あなたの魔力をシャザームは、ある程度把握しています。もし彼女が夫の魔法について詳しい場合、私達と同じようなことができたかもしれません」
「……うん、わかっているよ。皆の判断は正しい。ありがとう、私の世界のことを思ってくれて……」

 メルティナは、少し申し訳なさそうにしていた。恐らく、私を巻き込んだことに対して罪悪感を覚えているのだろう。
 だが、私はこれで良かったと強く思った。皆の迅速な判断は正しい。それが、私の素直な気持ちだった。
 私を巻き込むことになったことについては、気にすることはない。むしろ、私としては望む所だ。なぜなら、私は皆とこうやって一緒に戦えることを幸福に思っているのだから。
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