八つ当たりで、聖女をクビになりました。失恋した王子の乱心によって、王国は危機的状況です。

木山楽斗

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第4話 私達の先生

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 私は、マルグとともに先生の家を訪ねていた。
 先生は、この王都に暮らしている。騎士団の指導など、色々と仕事をしているそうだ。
 ちなみに、今でも孤児院には時々行っているらしい。このように、先生はとても立派な人なのである。

「おや……」

 そんな先生こと、バルケイン・オルウェフは、私達の顔を見て少し驚いていた。
 特に、私の方に驚いているように見える。

「えっと……こんにちは、先生」
「お久し振です、先生」
「ええ、こんにちは。二人とも、久し振りですね。とりあえず、中に入ってください。立ち話もなんですからね」

 私達が挨拶すると、先生は笑顔で応えてくれた。
 基本的に、先生は話が早い。こういう時に、すぐに受け入れてもらえるのは、本当にありがたいことである。



◇◇◇



 家に通されてから、私は先生に事情を説明した。
 マルグも何か用があったようだが、私の話の方を優先させてくれた。

「なるほど、こんな時間にリステラが来たのは、そういう事情だったのですね」
「ええ」
「スルーガ様も、大胆なことをしますね……」

 先生は、スルーガ様の行動をそのように評した。
 確かに、彼の行動は大胆だ。こんな理由で私をクビにすれば、反発されるに決まっている。何か、そうしなければならない理由でもあったのだろうか。

「大変なことになっているようですが、ルフェンドが動いているなら問題はないでしょう。彼は賢い騎士です」
「確か、先生の弟子なんですよね? 俺は、よく知りませんけど、すごい人なんですか?」
「ええ、私の自慢の弟子ですよ」

 マルグの質問に、先生はそのように答えた。
 ルフェンドさんは、本当に頼りになる人だ。今まで接してきて、私もそれはわかっている。
 マルグにとっては、知らない人だが、先生がこう言っているので、彼も安心しているはずだ。私達にとって、先生はそれ程信頼できる人なのである。

「それで、先生にお願いがあるんです。事件が解決するまで、私をここに泊めてもらいませんか? 王城を追い出されて、泊まる場所もなくて……」
「ええ、構いませんよ。無駄に広い家ですから、適当な部屋を使ってください」
「ありがとうございます、先生」

 先生は、私のお願いを快く受け入れてくれた。
 これで、とりあえずは一安心である。

「それで、マルグの方はどうしたんですか? もっとも、あなたの方はある程度は予測していますが……」
「ええ、その予測の通りですよ」

 私の話に一区切りついたので、次はマルグの話になった。
 ただ、彼の方は先生も予測できているらしい。だから、私の方だけに驚いていたのは、そのためだったのだろう。

「師匠から、これを預かってきました。きちんと修復できていますよ」
「ありがとうございます」

 マルグは、先生に長い包みを渡していた。
 その中身は、恐らく剣だろう。先生は、かつて騎士で剣を使って戦っていたので、そのはずだ。
 マルグは、現在鍛冶屋で働いている。それも、中身が剣であると予想できる要因の一つだ。

「わざわざ、ありがとうございます、マルグ。遠くから大変だったでしょう?」
「いえ、俺は旅行気分だったんで、別に気にしてませんよ。師匠も、たまには先生に顔を見せろと言って快く送ってくれましたし、何も問題はありません」
「そうですか。それなら、よかった」

 マルグの言葉に、先生は笑顔を見せた。
 こちらも、特に問題はないようだ。

「せっかくですから、マルグも泊まって行きますか?」
「え? いいんですか?」
「ええ、もちろんです」
「それなら、よろしくお願いします」

 私だけではなく、マルグも先生の元に泊ることになった。
 今日は、結構賑やかな夜になりそうである。
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