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15.彼らの末路は
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「シェリーカ嬢は没落したことよりも、マルギス伯爵令息に見捨てられたことの方が堪えているようです。一応平和に暮らしているようではありますが、すっかり憔悴していると聞いています」
「……そうですか」
「マルギス伯爵令息の消息については、わかっていません。風の噂で他国に渡ったというものがありますが、真偽は不明です」
「なるほど……」
私は、ラナート様からことの顛末について聞いていた。
マルギス様やシェリーカ嬢、私を振り回した二人は貴族としての地位を失った。それは身勝手な振る舞いの報いを受けたと考えても良いものなのだろうか。
「お二人のことは、フィリア嬢が気にする必要などはありませんよ?」
「え? あ、そう……ですかね?」
「ええ、そうですとも。こういったことで気に病むなんて、無駄なことです……といっても、フィリア嬢はお優しい方ですから、そういう訳にもいきませんか」
「いえ、それは……」
ラナート様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。
私は別に、優しいという訳ではない。マルギス様のことも見捨てた訳だし、そのように言われる資格はないだろう。
「……ラナート様は、私のことを買い被り過ぎています。私はただ、己の利益のために人を助けているに過ぎません。立派な人間という訳ではないのです」
「どのような意図があるにしても、人を助けることができる人は尊敬に値すると僕は思いますよ」
「え?」
勘違いを解こう。そう思って言葉を発した私は、驚くことになった。
ラナート様は、私の目を真っ直ぐに見つめている。その曇りない視線からは、彼の矜持のようなものが読み取れる気がした。
「ラナート様は、知っていたのですか? 私が単なるお人好しではないということを……」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「今の私の言葉に、驚いていらっしゃいませんでしたから」
「別に先程の言葉は、フィリア嬢がお人好しであることを否定する材料にはなりませんよ。あなたはどこまでも清い心の持ち主だと僕は思います」
ラナート様は、涼しい顔でそのようなことを言ってきた。
それに私は、なんとも言えない気持ちになる。自分が本当に彼の言葉に見合う人間であるのか、自信が持てなかったからだ。
「そんなフィリア嬢に、一つ提案があります」
「提案、なんですか?」
「僕と婚約していただけませんか?」
「……はい?」
少し気落ちしていた私だったが、ラナート様の言葉に大きな声を出すことになった。
上品とは言えないが、これに関しては仕方ないことだろう。ラナート様は、それだけのことを言ったのだから。
「……そうですか」
「マルギス伯爵令息の消息については、わかっていません。風の噂で他国に渡ったというものがありますが、真偽は不明です」
「なるほど……」
私は、ラナート様からことの顛末について聞いていた。
マルギス様やシェリーカ嬢、私を振り回した二人は貴族としての地位を失った。それは身勝手な振る舞いの報いを受けたと考えても良いものなのだろうか。
「お二人のことは、フィリア嬢が気にする必要などはありませんよ?」
「え? あ、そう……ですかね?」
「ええ、そうですとも。こういったことで気に病むなんて、無駄なことです……といっても、フィリア嬢はお優しい方ですから、そういう訳にもいきませんか」
「いえ、それは……」
ラナート様の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。
私は別に、優しいという訳ではない。マルギス様のことも見捨てた訳だし、そのように言われる資格はないだろう。
「……ラナート様は、私のことを買い被り過ぎています。私はただ、己の利益のために人を助けているに過ぎません。立派な人間という訳ではないのです」
「どのような意図があるにしても、人を助けることができる人は尊敬に値すると僕は思いますよ」
「え?」
勘違いを解こう。そう思って言葉を発した私は、驚くことになった。
ラナート様は、私の目を真っ直ぐに見つめている。その曇りない視線からは、彼の矜持のようなものが読み取れる気がした。
「ラナート様は、知っていたのですか? 私が単なるお人好しではないということを……」
「……それはどういう意味でしょうか?」
「今の私の言葉に、驚いていらっしゃいませんでしたから」
「別に先程の言葉は、フィリア嬢がお人好しであることを否定する材料にはなりませんよ。あなたはどこまでも清い心の持ち主だと僕は思います」
ラナート様は、涼しい顔でそのようなことを言ってきた。
それに私は、なんとも言えない気持ちになる。自分が本当に彼の言葉に見合う人間であるのか、自信が持てなかったからだ。
「そんなフィリア嬢に、一つ提案があります」
「提案、なんですか?」
「僕と婚約していただけませんか?」
「……はい?」
少し気落ちしていた私だったが、ラナート様の言葉に大きな声を出すことになった。
上品とは言えないが、これに関しては仕方ないことだろう。ラナート様は、それだけのことを言ったのだから。
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