心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗

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 私には、婚約者がいる。
 その婚約者は、ドルビン・アルスーバという侯爵令息だ。
 正直言って、彼はあまりいい人ではない。心の中で、色々と悪いことを考えているとてもひどい男である。

「カルミラ様、今日もお美しいですね……」
(まったく、今日もこの忌々しい女の顔を見なければならないとは、面倒なことだ)
「……ありがとうございます」

 彼の心の声は、とても気分が悪くなるものだ。
 彼は、言っていることと正反対のことを考えている。それは、よくあることなのだが、彼の場合、その度合いがひどいといえるだろう。
 こんなにもひどいことを言っているのに、表面では笑顔なのだ。流石の私も、ここまで二面性を持っている人はあまり会ったことがない。

 彼と婚約者になってしまったことは、私の人生最大の不幸である。
 こんな男と、結婚しなければならないというのは、私にとってはとても苦痛なことだ。

 私にとって、心を隠されるというのはとても不快なことなのである。心の声が聞こえるので、嫌でもその二面性を突きつけられるからだ。
 こんなにも嫌っているなら、いっそのこと正面から悪態をついてくれないだろうか。少なくとも、私はその方がましである。

 初めて会った時は、これ程ではなかった。悪態はついていたが、まだましだったはずである。
 それなのに、こうなったのだから、私達はとことん合わないようである。

「さて、今日はどのような話をしましょうか?」
(この女と話す時間が、俺にとっては一番の苦痛だな……まったく、どうしてこの何を考えているかわからない女が俺の婚約者なんだ……)
「そうですね……どうしましょうか?」

 私達は、お互いに嫌い合っているといえるだろう。
 しかし、親同士が決めた婚約を簡単に破棄することは簡単ではない。そのため、このように関係を続けているのだ。
 最も、私はいつまでもこんな男と一緒にいるつもりはない。いずれは、彼と別れるつもりである。

「ああ、そうだ。最近、聞いたある噂について、お話しませんか?」
「噂?」
(なんだ? なんだか、いつもと違うな……)

 私という人間は、人の心の声を聞くことができる。
 だから、彼がどういう考えをしているか、全て見抜けるのだ。
 それは、とても強い武器である。その武器を使い、私は彼との婚約を破棄するつもりだ。

「とある貴族が、片方の浮気によって、婚約破棄されたみたいですよ? それで、色々と大変なことになっているようです。浮気した方は当然ですが、婚約破棄した側も、それなりに苦労しているみたいですよ?」
「そうなのですね……」
(なんだ? こいつ、まさか彼女のことを……)

 幸いなことに、ドルビン様という男は軽薄な男だった。
 私が婚約破棄するための理由を、彼の方から用意してくれたのだ。
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